乙女ドロシー・ゴードンは若い外科医ロバート・プレントと想思の仲であったが、二人は長らく相逢う機会に恵まれず、せめて意中を通ずる手紙を、と思ったがそれを取り交わす術すらなかった。そして漸くにして二人がまた相逢う日が来た時、ドロシーは既に他の仇人との結婚式の晴れの衣装に涙を隠す彼女であり、ロバートは遂げられぬ悶々の情から果敢なく彼女の前から姿を消さねばならぬ彼であった。彼女の夫たるべき人はオーストラリアの金満家の貪欲の心から、相思の二人の仲をさいて、無理にドロシーをジョフレイに結びつけたものとは、後になってから知らされた。新婚の船はそれらの人々を乗せて海の旅に出た。嵐が船の衝突を引き起した。そしてドロシーの母親は死に、ジョフレイは行方不明となった。ひとり半ば失神した体となったドロシーだけが未亡人としてジョフイレイの広大な邸にとり残された。計らず、彼女の淋しい生活を知ったロバートハ、此為に彼女の打ち挫かれた肉体と精神とを救う医師として現れやがて二人の間には楽しい日が流れ、月を閲し、三年の後、愛らしい子供さえ設ける仲になった。が時に「海から来た男」ちぐて知られるだけで、何人もその素性を知らず、また彼自身すらも我が身の過去を忘失した男が現れた。が、ドロシーは一眼この男を見た時、愕然としたこの男こそ人々から死んだと思われていたジョフレイであった。この時、ロバートは医師としての職分から彼の記憶を呼び戻してやらなければならなかった。が、その手術が成功した時ロバートはドロシーを当然ジョフレイに返さなければならないのである。そして今や、悲劇は起ころうとした。が、その時、「海から来た男」は、深い物思いに沈みながら、幸福なる可き二人を残して、どことも知れず永遠にそのすがたを隠してしまった。