伊豆の湯の町に、黒門町の伝七が獅子っ鼻の竹をお供に湯治に出掛けたが、町は近くの火薬庫爆発の騒ぎで警戒網が布かれていた。鶴屋に宿る伝七達も調べられたが何故か役人達の様子が可笑しい。而もその夜職人風の男が殺され、その現場から火薬の粉が見出されたので、伝七は何かあると睨んだ。翌日滞在中の掛川藩のお景の方が神社の参道の上りぞめをやると云うので伝七達も見物に出掛けたが、奥方は来ず、代参の老女生田が伝七と同宿の怪しい老人に合図を送るのを見た。その時鶴屋の女中お俊が駈けて行くのに出合ったが、父源兵衛が火薬庫放火の疑いを掛けられ親娘悲歎に暮れていると云う。伝七が調べてみると、昨夜殺された男は火薬庫の番人で、美しい女芸人お千代に打込んでいたのだった。そこで伝七は盛り場を探し廻って半四郎と密談しているお千代を見つけたが、ある淋しい場所で彼らを見失った折も折、断末魔の老侍が倒れて居り、伝七が見付けた時「月ケ瀬」と叫んで息絶えた。竹と二人で探ってみると半四郎はお景の方の宿「月ケ瀬」に出入りしている様子である。暫くしてお俊の家へ来ると、お俊は押入れに閉じこめられ父源兵衛はお千代と浪人相馬伊蔵らに脅かされ地雷を作らせられて何処かへ連れ出されたとのことだ。生田と半四郎にあやつられた殺人鬼伊蔵と、彼を熱愛するお千代の手により、掛川藩お家騒動にお景の方爆殺の地雷の導火線に火が点じられていたのだ。今や義憤とお俊への愛情に伝七は立ち上り、不正な者をあばくと同時にお景やお俊たちを救おうとする。