深々と降り積もる雪の中、貧乏長屋の軒先で自らの募る思いを身振り手振りで伝え、互いに抱き合うおきくと中次を捉えたクライマックスシーンが素晴らしい。言葉を超えて身分を超えて結びつく男女のしみじみとした情愛がモノクロームの諧調豊かな画面を通して静かに伝わってくる。
貧しいながらも肩を寄せ合い生きる人々のつましくも暖かい暮らしぶりを掬い取り、「糞な世の中」を時に抗いながらも何とかやり過ごし生き抜く男女三人の恋と友情と青春を余情深く紡ぎ出した珠玉の逸品。社会の中で循環する排泄物をモチーフにした発想の妙光る物語を時にユーモラスに、時に切なく紡ぐ阪本順治の語り口の上手さに引き込まれる。降りしきる雨や生い茂る木々を瑞々しく捉えた自然描写や、実在感のあるセットに衣装といった完成度の高い映画美術も秀逸。
凛とした佇まいの中にも無邪気な可愛さを体現した黒木華をはじめ、その脇を固める寛一郎、池松壮亮、佐藤浩市、石橋蓮司、眞木蔵人といった俳優陣の役にはまった好演が印象に残る。