本作は、劇作家・松田正隆による傑作戯曲を玉田真也監督が映画化した作品だ。オダギリジョー主演で、松たか子、満島ひかる、森山直太朗、高石あかりなどの俳優陣も魅力の作品だ。
雨が降らず、茹だるような夏の長崎が舞台だ。長崎の夏は、日差しが強くて蒸し暑い。特に8月9日の原爆投下の日は日差しが強烈だ。男は幼い息子を亡くし、さらに勤め先の造船所の閉鎖から仕事も失い、おまけに妻も元同僚に奪われる。新たな仕事をさがす気にもなれず自堕落に過ごしている。
そこへある日、男の妹が17歳の娘を預けて去っていく。その姪も、男を追って去っていく母に捨てられた喪失感で呆然としている。
本作は、互いに喪失感を抱えた男と姪の不器用な同居生活を描いている。乾いた日常の中でそれぞれの痛みを抱える二人が小さな希望を探し始めていく物語である。
「ここは、ピカって光って、一度は全てが失われたところだよね」との姪の台詞がある。それは、一度は全部失ったところから、今の長崎がある。だから、今、幾つものものを失った人生ではあるが、大したことではないのではないか、と。全てを喪失した絶望から小さな希望へと発想を転換していく言葉のように感じた。
二人が、久しぶりに降った雨に大喜びしていくシーンが印象的だ。小さな幸せを喜べること。元気が出てきた証拠である。
男は、姪との生活の中で、徐々に元気を取り戻し、仕事探しを始める。やっと見つけた仕事が中華料理店である。しかし、仕事中に包丁で手の指3本を切断してしまう。
そこへ妹が再び訪れ、新しい男を追ってカナダに行くので、娘を連れて行くと言う。
男と姪との生活は一夏で終わる。別れの日、姪は自分の帽子を男に差し出す。男はその帽子をかぶって、何か吹っ切れたように歩み出す。青空に、指3本を切断した手のひらをかざす。「まだ2本の指がある」と明るく言う男の言葉に胸打たれた。
失われたものを数えても嘆いても仕方がない。今ある、ありのままの姿で、小さな希望を見出していく。そんなメッセージを男の言葉と姿から受け取った。
男は、去り行く妹に、「いつでも帰っておいで」と声をかけた。そこには、もう喪失感に負けない、無様でもみっともなくても、生きて生きて生き抜いてみせる、との力強さを感じた。