「何処の地もそれぞれに...ローマです。何と申しましてもローマです。私は彼の地を生涯忘れることはないでしょう」
午前十時の映画祭15にて鑑賞。
マッカーシズムの嵐が吹き荒れる中、"ハリウッドに最も嫌われた男"ダルトン・トランボがコッソリ書いた脚本を、名匠ウィリアム・ワイラー監督が全編ローマロケで映像化することになった。そこに綺羅星の如く現れた一人の無名女優。緊張気味にスクリーンテストを受ける彼女の姿を見てワイラー監督は確信する、「やがて世界中が彼女に恋をすることになるだろう」。
古典にしてラヴ・ロマンスの頂点。何度も観た映画なので今更言うこともないのだが、何度観ても良いものは良い。「美を盛り立てる」ハリウッド式足し算に対し、「美そのものを輝かせるために余計な部分を削ぎ落とす」引き算の発想でオードリーはスクリーンに突然現れた。その当時の観衆の衝撃たるやいかばかりか。
自分にとってもハリウッド史上最も好きな女優は間違いなくオードリー・ヘップバーンなのだが、自分は少し天邪鬼なところがある。個人的に好きなオードリーは大体ミドル〜ロングヘアなので、本作のショートボブはハッキリ言って切る前の方が好きだったりする。より厳密に言えば、マリオに髪を切ってもらう前に前髪を全部垂らすオードリーが一番いい。あの時の唇ツンと尖らせて何か企む表情が見え隠れする感じがいいのだが、恐らく誰にも伝わらない。
そしてスペイン広場で14時40分〜16時55分まで2時間以上も溶けずに粘り続けた不屈のジェラートにも触れねばなるまい。デジタルリマスターにあたって、スペイン広場の時計は修正されたと聞いていたが、今回はオリジナルのままの上映で個人的にはちょっと嬉しかった。
最後に少しだけ想像を巡らせてみる。もしアン王女のWikipediaがあったとして、この欧州親善旅行はどのように記載されたのだろうか。「イタリア滞在を巡る謎」などと項目が設けられただろうか。「王女時代の欧州外遊において、ローマ滞在時に急病のため1日だけ予定を全てキャンセルしたが、
・同日にローマ市街の各所で王女とよく似た容姿の女性が目撃されたこと
・同日夜にサンタンジェロ城付近のダンスパーティーで同国の秘密警察と思われる人物8名が乱闘騒ぎによって逮捕されていること
・同日深夜、重病と思われていた王女が突如奇跡的に回復したこと
などから、一部専門家からは疑問が呈されている。」
なんて書かれたんだろうか。
いずれにしても思い出はモノクローム、真相は本人のみぞ知る(ハズ)。
少なくとも、このローマ滞在時の急病からアン王女は一変し、女王即位後も国民のみならず全世界から愛されたであろうことを願ってやまない。