長距離列車に乗れば,その席は当然のように相席である.走行の騒音が聞こえている.窓からは沿線の景色だけではなく,夜の光が漏れてくる.客室乗務員は,機械的で冷たい.こうしたロシア人ばかりの移動環境にひとり寂しく入り込んできたのは,フィンランド人のラウラ(セイディ・ハーラ)である.
彼女は普段,知的な会話の中にあって.恋人で大学教授のイリーナ(ディナーラ・ドルカーロワ)とお楽しみ中の時もある.しかし,イリーナに半ば追放されるようにして,ラウラは,ムルマンスクへ向かう.そこでペトログリフを観るために,ロシアの僻地へと向かおうとしている.
そんなラウラが列車で相席しているのは,ロシア人のリョーハ(ユーリー・ボリソフ)である.彼はがさつでラウラは迷惑そうな顔を隠さない.彼女は硬い表情をしており,そのこともラウラに早々に指摘されてしまう.
ラウラはソニーのビデオカメラを回している.のちにソニーのウォークマンを聞いていることもある.安っぽいような曲が聞こえてくる.ビデオカメラは記録的なものでもあるが,偶然に映ってしまうもののある.列車は時々,ある駅で長時間にわたり停車する.乗客たちはその時間を使って,その地にそれぞれ散っていくこともある.ラウラは,異郷で寂しくなってしまったのか,頻繁に恋人に連絡を取ろうとするが,恋人はつれない.そして,ある電話ボックスでの出来事をきっかけに,ラウラはリョーハの親切に触れ,彼との隔たりが消えかかる.二人が訪れた老婦人の家で,婦人は心の声の話をしている.ウォッカがわりの密造酒を飲みすぎるとラウラは寝坊をして列車の出発に遅れそうになる.
相席は相席を呼んでいる.孤独な旅人はギターを爪弾き,しみったれた歌を歌い出す.犬に導かれて散歩することもある.列車はペトログリフのある都市に達するが,駅から先の道は冬季通行止めになり,ペトログリフに到達することはできない.それでも採石場で労働していたリョーハの力をかり,海のように広がる水面のところまでラウラは達している.そこにペトログリフがあるのかは定かではない.ただ打ち捨てられた船があり,まだどこかへと続きそうな感覚がある.似顔絵に描かれた鉛筆の線が,まだ続くような.