スポーツジムに通うオカマバーのゴンママやアイデアが枯渇した女流漫画家のミレイ、さらにシャチォーやセンセーを交えた群像劇のつもりで見始めたら、幼い娘を亡くした歯科医のセンセーが主役(ゴンママとのW主演とも言える)になっていた。明るくて優しい妻がセンセーの心無い一言で心を閉ざしてしまう。後悔したセンセーが何とかコミュニケーションを取ろうとジム仲間の話題を口にするのだが却って逆効果。長きに渡り夫婦関係は冷めたまま。
家に居場所が無いセンセーは頻繁にゴンママの店に来る。訳ありの女性バーテンダー(この人もゴンママに助けてもらっていた)が作るカクテルのカクテル言葉がその人の心情を的確に捉えていた事に瞠目。反抗期の娘との距離感に悩むケラさんにはメロンボール【変身】、妻との関係が暗礁に乗り上げたセンセーにはキムレット【遠い人を想う】とソルティドッグ【寡黙】を振る舞っていた。この店の中だけに舞台を限定して、各人の思い出を回想シーンで描くオーソドックスな作劇も見てみたかった。
ゴンママの唯一無二のキャラクターが本作最大の魅力。この人が口にする飾らない言葉は観客にも突き刺さっていたはず。“悲しいときは喋らなくていいのよ”、私にはこの言葉が刺さりました。こんな店が身近にあったら行ってみたいな。
娘のお墓参りに行ったセンセーと妻は墓前で大喧嘩をする。“死んだ人にとらわれ過ぎたら前に進めない”と妻。本当にそのとおりだと思う。生きている限り自身の命を精一杯全うするのが死者への供養でもある。そんなメッセージがそこはかとなく感じられたヒューマンドラマでした。それにしてもタイトルの意味は未だに不明だ。