これだけ高齢者が増えてくると、本当にこの“PLAN75”が実現する世の中になりかねない。私自身もそれまでにあと10年しかない。今は仕事もさせてもらえているが、いつ首を切られてもてもおかしくない立場。ようやく年金がもらえる年齢にはなったが、それだけで果たして食べていけるのだろうか。不安は募るばかりだ。
倍賞千恵子演じるミチは、4人の高齢者仲間と楽しく働いていた。そういう環境であれば、PLAN75も考えなくてもよさそうだ。しかし、運命は徐々に変化していく。次第にPLAN75に向かわざるを得ない状況に追い込まれていく様子が、淡々と描かれていく。
丁寧な説明は一切排除されているので、観客は想像を巡らさなければならない。セリフも最低限なので、役者の芝居と周囲の画面から、判断しなければならない。観客によって、捉え方は変わるだろう。それでも倍賞千恵子の演技は当然素晴らしく、文句のつけようもない。彼女は私の中では、いつまでも寅さんの妹で、その作品の中で、ずっと年を重ねていく様子を見てきた。あの若く可愛らしい“さくら”も、もう後期高齢者だ。倍賞はその老いた身体を晒す。年老いてしまった。彼女も、この私も。もう後戻りはできない。
年金で生活できるはずではなかったのか。年老いた体に鞭打って、いつまで働かなければならないのだろう。どうせ今の仕事さえ、ずっと働けるわけでもない。ミチたちのように、いつクビになってもおかしくはないのだ。
映画内では二人の若者の行動に、それでも希望が感じられる。プラン75の職員ヒロム(磯村勇斗)は、音信不通だった叔父と再会。できるだけ叔父に寄り添おうとする姿が、気持ちが美しい。瑶子(河合優実)はPLAN75のサポート業務を担当するコールセンター職員。電話で一回15分だけ、死を決めた利用者の話し相手になってくれる。規則違反までしてミチの希望を叶えてくれる優しさ。そして最後の電話での、涙を堪えながらの芝居は絶品。
そして、ラスト。ミチに何が起こり、何を思い、そしてどうするのか。それは映像を堪能しながら、それぞれが思いを馳せればいい。
2022年キネマ旬報ベストテン第6位。同じく読者選出も第6位。