隠蔽されてきた性加害が告発される今こそ相応しい作品
『プロミシング・ヤング・ウーマン』(Promising Young Woman:将来を約束された若い女性)2020
USA
「俺たちは何にもわからないガキだったんだ」
「もう何年も前のことじゃないの」
「酒を飲み過ぎた方が悪いのよ」
なんだか聞いたことがある言い訳ばがり。性加害を正当化する邪悪な男の言い訳と女性の諦め。
見事な脚本のスリラー。性加害が告発される今に相応しい。
主人公のカサンドラことキャシー(キャリー・マリガン)は元医学生。今はカフェのバリスタ。それは世を偲ぶ仮の姿。夜になるとバーに出かけて泥酔したふりをして下心を持った男が性加害をする様に仕向けては、実はシラフだと告げてセクハラ男をタジタジとさせている。
主人公の名前はカサンドラはギリシャ神話の登場人物。トロイの王女。
「ゼウスの息子アポローンはカサンドラに恋をして予言の力を与えたが、カサンドラがアポローンの愛を拒絶すると、怒ったアポローンは「カサンドラの予言を誰も信じないように」という呪いをかけた。その結果、カサンドラは未来を知りながら、それを伝えても誰からも信じてもらえず、どうすることもできないという状況に置かれた」(Wikipedia)
「真実を述べても信じてもらえない」キャシーが訴える「真実」は幼馴染で同じ大学の医学部に進んだニーナ・フィッシャーが酒を飲まされて男子学生達にレイプされて大学当局に訴えても取り合ってもらえず自殺したという事件だ。
犯人達は今や立派な医者になり主犯は、近々結婚する予定だと知ったキャシーは「I wan’t fix it」とニーナの母に告げて復讐を計画する。fixは「壊れてしまった世界を元通りにする」という語感がある。
アカデミー脚本賞を受賞した脚本が素晴らしい。キャシーが感じていた喪失感や絶望感を観客にも実感させる見事なラスト。かなり衝撃的で考えさせられる。
・シンメトリーの構図が多い。キャシーが自宅のソファーに座るとキャシーの左右に広がるソファーの背もたれが天使の羽の様だ。
・『私を離さないで』のキャリー・マリガンの多彩な表情が素晴らしい。
・脚本と監督のエメラルド・フェネルは『バービー』でミッジ、『ザ・クラウン』ではカミラを演じている人だった。次の作品『ソルトバーン』も公開を控えている。楽しみだ。