ナチスが政権を取って対仏戦勝まで8年ある。対抗勢力を屠り、反ユダヤ、反共、反民主主義という
危険思想を純化させて歴史上まれな成功を勝ち得ていた。ヒトラーもゲーリングも達成感に酔っていた
のだろう。神のような位置に立ち、芸術まで支配する錯覚に陥ったようだ。ナチス幹部でも芸術を理解
することにかけては突出した二人に、すり寄って来る画商も多かった。ヨーロッパの美術品をかっさらう
プロジェクトも大がかりで、手足として親衛隊が使われた。この面ではヒトラーとゲーリングの私兵となった。
まずはユダヤ人富裕層から美術品の没収が行われた。そして1937年のミュンヘンで二つの美術展が
開かれた。片方は「退廃芸術展」で最新のキュービズムや印象派が集められて、糾弾される。もう一つは
「大ドイツ芸術展」でヒトラー好みの写実的な作品が集められた。ピカソなどのキュービズムは、実際の
身体障害者の写真が並べられて批判される。上っ面だけを取り上げて、反対者を葬る作戦。いかにも
ナチス流。ヒトラーは生まれ故郷のリンツに彼流の「ルーブル美術館」を作りたかったという。
2013年の「ミケランジェロ・プロジェクト」で登場したモニュメンツ・メンの活躍なども描かれる。あるいは
2015年の「黄金のアデーレ名画の帰還」など、奪われた名画の返還訴訟の難しさも伝える。戦災で
燃えてしまった、と言われると、盗まれた名画の捜索は終わってしまう。
しかしこの手のナチス美術品泥棒映画は、歴史秘話の深い霧に隠れてしまい、被害にあった人には
申し訳ないが、怖さはない。手段がいかに卑劣でも、ヒトラーとゲーリングの中に美術愛好家の顔が
見えてしまう。「ゲルニカ」のピカソの怒りとは妙にかみ合わない。
ここにはユダヤ人絶滅作戦などの血と死の臭いがないのだ。