交通事故により車椅子生活を余儀なくされることになった実在の漫画家ジョン・キャラハンに焦点を当てたヒューマンドラマ。
幼時に母親に捨てられたトラウマに苦しめられ、それから逃れるためにかアルコールに走り、周囲に辛く当り散らす皮肉屋として荒んだ生活に溺れる男をホアキン・フェニックスが好演している。ほとんど一人芝居に近いその作り込んだ演技はこの後の「ジョーカー」に繋がるパフォーマンスだと思う。
禁酒会に参加しても周囲とうまく調和をとることができないジョン。そんな彼が禁酒会のリーダー的存在ドニー(ジョナ・ヒル)のアドバイスで自らを解き放っていくくだりがなかなか感動的に描かれていた。
いや何か特別なことをするわけではない。不幸のすべてを周りのせいにしていた自分の考えを改めるだけだ。それまで迷惑をかけた人々に謝罪してまわるジョン。謝罪を重ねるごとに顔から憑き物が落ちていくように表情が柔和になっていく。最後に自分を捨てた母とそんな母を呪った自分自身に許しを与える。まるで宗教的な行為にも見えるけど、実は誰にでもできるこの謝罪というシンプルな行為が人を変える。このへんの演出・演技がともにたくみであり説得力があった。
彼が周囲に撒き散らしていた皮肉や毒は自身の漫画の中で吐き出す。その作品は賛否両論だけれど、心優しいパートナー(ルーニー・マーラー)を得た彼の表情からはかつてのような鬱屈は消えている。魂が救済されるまでを描いたドラマ。