はっきり言ってリアリティは皆無です。
めちゃくちゃご都合主義だし、色々有り得ない。
けど、ハートフル映画だもん、それでいいじゃん!て思わせてくれるような、優しさと温かさと切なさと苦しさがギュッとおもちゃ箱に詰まったような映画。
特に、毒親とか虐待とか誘拐犯罪という重た苦しいものがテーマなのに、ある種の推し活のようなものを中心に、人間関係を描いていく斬新すぎるストーリー。
子供の頃に幼児番組やアニメやヒーローヒロインものに目を輝かせた子ども時代がある人なら誰でも気持ちがわかるだろうし、ヲタクや推しがいる人なら尚更共感するところがあると思います。
推しといえども、私達の思うようなレベルではなく、世界がそれしかない、娯楽がそれしかない、人生の全てであるかのような、彼の分身のようなアイコン。
つい最近、同じようなテーマで、「カミヤモブリー」や「最愛の子」なんかを続けて鑑賞していたので、長年誘拐されていた子供の心情と誘拐した親、された側の親の苦悩や人間関係の構築の難しさや埋められない年月のトラウマなど、リアリティのある苦しい話ばかり見ていたので、全く真逆のこの作品がめちゃくちゃ染みました。
カミヤモブリーなんかは、監禁ではなく純粋に誘拐犯に愛されて育ち、偽の親への愛情が深かったとはいえど、実の親がそれを最後まで嫌悪し、娘の感情を無視して非難した事で、本当の意味で娘との信頼関係を築けていなかったので、むしろ、この映画はクマというファンタジックでかなり突飛なものが対処ではあるけれど、究極、責任のない子供が人生を過ごしてきた軌跡や感情を尊重する事でしか、新しい家族との信頼関係は構築できないというのは実は真理なんじゃないかなと思います。
ジェームズの場合は、心の支えや愛情が、親ではなくブリグズリーべアにかかっていた所が救いだったかもしれませんが、両親が彼の大切なものに理解を示してくれたのが何より素敵でした。
両親との関係が、友人や妹によって助けられていくのもとても良き。
最初は意地悪な妹に無理やり連れられていったパーティでスペンサーに出会えたのも、刑事さんも、精神科に入れられた時に出会った友達も、ジェームズが出会った人達が皆愛情あふれる人達なのがめちゃくちゃ素敵でした。
ジェームズの人生にそれしかなかった「推し」を通して彼自身がそこから解き放たれて成長していけるストーリーも良かった。
あったかいのに切なくて優しいので、終始ギュッと胸が締め付けられるような感じで号泣しながら見てました。
皆で作る映画のブリグズリーべアはジェームズ自身と重なり、それを完成させ、周囲に認められ、昇華することで、彼の人生の第1ピリオドが打たれ、ここから新たに新しい世界へ成長していけるんだろうなというラストも良かった。
まあ、犯罪者の作ったエンターテインメントが規制されないものかとか、YouTube公開とかならともかく、あんな知識もない個人が作った映画が映画館の規模で公開出来るのかとか、受刑者がそれに声を当てていいもんかとか、色々ツッコミところは満載で有り得ないでしょ、というところはありますが、あまり細かい事は言わずに、ジェームズと同じ目線で童心に返って見て欲しい作品です。