茶道のけいこが淡々と続くので興味のない向きには退屈に感じるシーンもあるが、ふだんはあまり意識しない暦による四季のうつろいが感じられる。そして何よりもお茶のけいこを通じて、典子というひとりの女性の心情が情感たっぷりに描かれ、観終わったあとにほのぼのとさせられる。
1993年、典子が20歳の女子大生の時、母親にお茶のけいこを勧められる。あまり乗り気ではなかったが、同い年のいとこの美智子が習うと言うので、一緒に習い始める。典子を黒木華が、美智子を多部未華子が演じており、ひと頃はやった言い方を借りれば、しょうゆ顔とソース顔で外見も異なれべ、性格も異なる。何事にも積極的で考える前に飛ぶ美智子に対し、典子は消極的で考えてから飛ぶタイプだ。
典子と美智子が通う茶道教室の先生は、古い屋敷にひとりで住むおばあさんだ。演じる樹木希林にお茶のたしなみがあるのかは知らないが、本当のお茶の先生に見えるのだから大したものだ。
茶道には細かい所作や礼儀、しきたりが多く、典子と美智子はとまどうばかりで、おまけに正座を続けるので足もしびれる。ふたりは何度かやめようと思うが、それでも頑張って続ける。
典子と美智子は仲がいいが、芯からお互いを理解しているとも見えない。小学生の時、父親にフェリーニの「道」を見せられ、まったくわからなかったが、最近見直して感動したと熱く語る典子に対し、美智子は「それで?」とつれない。波長が合っているとは思えない。
美智子は就職を期にけいこをやめ、3年後には会社も辞め、故郷に戻り、見合いし、さっさと結婚し、子供ももうける。一方の典子は就職に失敗し、バイトの身、30歳の時に結婚を考えていた恋人に裏切られ、傷心に耐え切れず、けいこも中断するが、それでもけいこを再開することで立ち直る。
父の死も乗り越え、けいこを始めてから24年が過ぎ、典子も40代になる。すっかり落ち着いた彼女が見せる、おだやかでやからかく暖かい笑顔にいやされる。