ラングにしては珍しいコメディタッチだが主題はラングならでは
シネマヴェーラ渋谷のフリッツ・ラング特集で初めて観た「真人間」は、元犯罪者を更生させ社会復帰させることに熱心な社長ハリー・ケリーのお陰でデパートに勤める元強盗ジョージ・ラフトが、かねてより想いを寄せていて、彼が元犯罪者であることを知ってもいる同僚シルヴィア・シドニーと結婚する事になるものの、妻シドニーから“勤務先デパートは社内結婚は禁止されているので、結婚は内緒にしなければならない”と聞かされ、ラフトは同僚たちに結婚を教えていなかったところ、ラフトと同じ売り場の同僚が社内結婚しているという事実を知り、次第に妻シドニーへの疑念が湧いてくるというお話で、フリッツ・ラングにしては珍しいコメディタッチの映画ですが、ここでも“信頼と裏切り”が主題を形成しているのであり、紛れもないラング映画です。
再び犯罪に手を染めようとする夫ジョージ・ラフトやその刑務所仲間(刑務所時代の暗号を再現しながら自分たちの絆を確認する男たち!)に対して、黒板を使って具体的な数字を挙げ、犯罪は割に合わない事を説くシルヴィア・シドニーが魅力的ですし、ジョージ・ラフトの前から姿を消したシルヴィア・シドニーの居場所が発覚する終盤は、観ていて頬が弛みますが、この映画最大の観どころは、ジョージ・ラフトが妻に対して疑心暗鬼になる中盤のサスペンスフルな部分だったと思います。