ディカプリオにとって超絶ハードな撮影、いやはや、お疲れさまでした
ネタバレ
ディカプリオが身体を張った大熱演で、悲願のアカデミー主演男優賞を受賞しました。彼にとってはまさに、4度目の正直となった本作は、西部開拓時代を題材にしたサバイバル劇でして、実話を元に製作されたものです。
1823年、アメリカ北西部。当時、開拓団はチームを組んで狩猟をし、採取した毛皮の売買をして経済活動に当てていました。案内人兼ハンターとして雇われていたグラス(ディカプリオ)は、かつてインディアン女性と所帯を持ったことがあり、息子を設けましたが、居住していた村が開拓者たちに襲われ、妻は殺されてしまうという、辛い過去を背負っていました。
さて映画の冒頭、グラスたち狩猟チームが獲物である毛皮を運搬している時、突然インディアンたちの襲撃に遭うシーンが、まずはすごい迫力です。圧倒的な数のインディアンたちに囲まれた隊員たちが、雨あられと降り注ぐ矢に射られ次々と倒されていくのですが、その壮絶なことと言ったら! 視覚的にも銃で撃たれるより矢で射られるほうが痛そうですし、矢が風を切って飛んでくる時の音響も恐ろしいほどにリアルです。
命からがらその場を逃げ出したメンバーたちは、グラスの提案により、船による毛皮の運搬を諦め、陸路を選びます。その途中、見回りに出たグラスは子連れの母グマに襲撃されるのですが、このシーンがまたすごいです。CGを使っているはずなのですが、どう見ても実際にディカプリオが大熊と格闘しているようにしか見えません。いや、格闘というより、一方的に噛みつかれ引き裂かれのフルボッコという、グログロな場面の連続でして、いやはやこれも相当に痛そうです。
そう、本作は実に痛そうな場面の連続でして、この方面に耐性のない方には相当キビしい映画かも知れません。とにかくディカプリオは喉は引き裂かれるは、崖から転落し、滝つぼに流され、飢えと寒さで凍え死にそうになりながら、怪我が化膿し身体が腐りかけるはと、生きているのが不思議なほどの艱難辛苦。そればかりか、瀕死の重傷を負ったことにより、過去に殺された妻に続いて、息子を目の前で殺され、自らも雪の中生き埋めにされ取り残されます。
まさに叩いても死なないド根性物語ですが、何が彼をそこまで頑張らせたかというと、それはズバリ復讐心…と、本作ではそういうことになってます。ただ、見た目のグログロ描写に対し、恨みつらみの心のドロドロ描写はいま一つです。大部分のシーンがディカプリオの一人芝居のような本作、ほとんど台詞がなく顔と目の表情だけで演じた彼の演技力は評価されてしかるべきなのですが、それにも関わらず彼の心の中に渦巻く執念みたいなものがリアルに伝わって来ないのは、むしろ脚本・演出の責任と言うべきかも知れません。特に終盤の展開は史実とは違っているそうでして、そのため突っ込みどころ満載となってしまいました。
ところで、大怪我を負い仲間に取り残される話と言えば、最近見た「オデッセイ」を思い出します。どちらも孤独で過酷なサバイバル劇ですが、それぞれの主人公の心情は真逆です。果たして人間、復讐心だけでこれだけ頑張れるものなのか? 史実に脚色を加えた本作より、フィクションの「オデッセイ」のほうが、よっぽど人間らしい、と感じてしまう私はやはり、甘いでしょうか?
あと、類似のフィクションでは他にも、ダスティン・ホフマンの「小さな巨人」があります。主人公が同じように復讐心を抱きながらインディアンとアメリカ人の間を行き来する話ですが、余韻の深さという点においては、45年も前に作られたかの作品の偉大さを図らずも再認識した次第です。
(2016/5/3 記)