1より確実に退化したシナリオとアカペラ。キャラクター人気だけで戦うには浅い。
私個人の基準である60点の良作ラインをギリギリ下回る59点。
1では主人公のアナ・ケンドリックが斜に構えたぼっち大学生から仲間との信頼を学ぶキャラクターの成長とジェシーとの恋という2つの青春物語に欠かせない要素が織り込まれており、アカペラシーンだけしか魅力のない作品ではなかった。
チームの仲間も立ち位置がはっきりしており、ファット・エイミーだけでなく、変人であることを笑い者にする為だけに生まれたキャラクターではなかった。
しかし、2では1のヒット要素を勘違いしたのか、それとも本国アメリカでは感性が全く異なるのかシナリオはあらぬ方向へ大きく転換してしまった。そこにあるのはただお下劣なジョークばかりが散りばめられ、登場人物の成長を描くことを放棄した質の悪いコメディだった。
もちろん、コメディが悪いとは言わないし、変人たちが口にするイカれたジョークは本作品の持ち味の1つであろう。しかし、ファット・エイミー1人の、それも下品な下ネタばかりで2時間の映画を引っ張ろうというのはあまりにも安直な考え方である。
主人公であるベッカは卒業を前に皆に秘密にしているインターン先のことで悩んでいるが、これが世界選手権、チームの解散というストーリー上の大きな危機を乗り越える課題として全く機能していない。大筋のストーリーの脇に、どうでもいいサイドストーリーがくっついているだけである。
さらに、前作で人気を得たのはわかるが、ファット・エイミーの出番が多過ぎてベッカの葛藤や新メンバーの加入した意味が全く入ってこない。演じるレベル・ウィルソンのコメディエンヌとしての覚悟は相当なものだが、映画全体を食ってしまうのはよくない。
世代交代を匂わせる新入生のジャンクは、序盤の空気読めない発言と中盤での失態から何かを学ぶ様子はない。ただチームに迷惑をかけただけで、本人が成長しないのはまだしも、1から続投のメンバー達ができの悪い後輩を持ったことで振り返って何かを学ぶ、というような仕掛けもなく、本当に何のためにこのキャラクターを創り出したのか理解に苦しむ。
それでも最後のアカペラシーンだけは素晴らしいものを見せてくれるだろう、と希望を捨てずに観ていたが、そこに待っているのは1よりも確実にパワーダウンしたステージ。
このシーンの魅力が薄いのは、べラーズの面々が課題を乗り越え強大なライバルを打ち負かすに値する理由を持たないからである。そのライバルチームの人間についても全く掘り下げられていないから、総じてこのシリーズにおいては「アカペラの凄さ」に重みがない。べラーズが世界で優勝するほどの演技をしているのかどうか?観ている人にとっては全くわからないからである。苦難を乗り越え努力して成長するシーンがきちんと見せられていれば、きっと共感を持ってべラーズが優勝することを信じられるだろうが、それらを描くべき時間は全て下品なコメディに費やされてしまった。
思うに、本作品はアメリカのTVドラマシリーズの作り方で脚本が書かれてしまっている。登場人物の魅力に頼って、大事な事件はチョチョイと御都合主義で解決。来週もファット・エイミーがどんなふざけた事を言い出すのか楽しみにしていてね、という感覚。正直、映画でこれをやらないで頂きたい。42分あれば本作を描くのには十分だと感じる。