何度かテレビで観たことがあるが、何度観てもおもしろい。見せ場が多く、先が読めない展開はスリルに満ち、サスペンスとしても超一級だ。アーネスト・リーマンによるオリジナル脚本がよく練れており、ヒッチコック監督の演出のうまさが光る。そのヒッチコックは冒頭のカメオ出演で、ユーモラスな演技を見せてくれる。キャストもすばらしい。主演はヒッチコック作品の常連ケーリー・グラント、ヒロインはブロンド美女のエヴァ・マリー・セイント、渋いジェームズ・メイスンがクールな悪役に徹している。
東西冷戦下のスパイの暗躍が背景にあるが、派手なアクションシーンが飛び出すスパイ映画ではなく、サスペンスに重きを置いている。ビジネスマンのロジャーがスパイに間違えられ、敵の組織に誘拐される。いくら人違いだと主張しても信じてもらえない。彼もまた「間違えられた男」だ。大量の酒を飲まされ、事故に見せかけて殺されそうになる。あげくのはてに殺人犯にされ、警察に追われる身となる。現れた美女のイブが警察からかくまってくれるが、彼女は敵の組織のバンダムと通じているようだ。ロジャーとイブのロマンスがサスペンスにからみ、話がふくらむ。
イブの罠で平原におびき寄せられたロジャーが空から飛行機に狙われる。建物も何もない平原で背の高い草の中に横たえて身を隠す。アメリカの広大さがビジュアルに伝わる。圧巻は何と言っても、歴代大統領の巨大な彫像があるラシュモア山での追跡劇だ。人間が彫像を降りて行くことで、彫像の巨大さがビジュアルに伝わる。映画史上、屈指の名シーンだろう。
広大な自然と巨大な建造物を取り入れることで、映画全体をスケールアップさせている。マッチラベルの使い方に見られる細かいことから巨大なものまで、ヒッチコックの魔術が楽しめる。