2021年5月16日に鑑賞。DVDにて。1時間26分21秒。スタンダード・黒白。RKO RADIO PICTURES。一部、ドイツ語、フランス語、ロシア語。
監督:ジャック・ターナーは「過去を逃れて」(1947)が代表作でしょう。
開巻のタイトル『Actual scenes in Frankfurt and Berlin were photographed by authorization of The United States Army of Occupation, The British Army of Occupation, The Soviet Army of Occupation.』と出る。
米軍占領下のフランクフルトとベルリンの街が映し出される。瓦礫の山である。初めて知ったが、フランクフルトは米国占領下なんだ。軍需企業だった I. G. ファルベン社の焼け残った本社ビル(巨大である)に『欧州戦域米軍本部 USFET 』が置かれて欧州全域を統括していたのである。
パリからフランクフルト中央駅へ米陸軍の特急列車が運行されている。乗客は米軍兵士や米政府、米軍関係者である。更にフランクフルトからベルリンへ。
ベルリン市街の焼けた総統官邸、国会議事堂、ブランデンブルグ門、ウィンターデンリンデン、ティアガルテン、アドロン・ホテル(ADLON HOTEL)などの実際の映像が見られる。
通貨よりも「タバコ〇本」という通貨が流通している。モグリ酒場への入場料は「2人でタバコ4本」。フランクフルト駅では、多数の市民が外国人にマイセン陶器や骨とう品を売ろうとしている。また、米兵がロシア軍人に「ヒトラーの直筆の手紙」をタバコ2箱で売ろうとする。モグリ酒場では客が捨てた吸い殻をほぐして巻紙を捨ててタバコを混ぜて1本に再生して売っている。博士が吸うタバコは少し長く、巻紙に「B」という文字が印刷されている。
映画は設定を今ひとつ生かし切れていない。もったいない。サスペンスの醸成も今一つである。列車内のサスペンスがない。開巻で客室の7人を入念に紹介したのに、あっさり爆発が起きてフランクフルトに着いてしまう。フランクフルト駅でこれもあっさり他の5人に彼がベルンハルト博士だと知れてしまう。本物の博士とバレるかどうかというサスペンスも皆無である。偽の博士が身代わりに爆死した意味がないよ。
乗客は米国人の政府の農業専門家ロバート・J・リンドリー(ロバート・ライアン)、鉄業者オットー・フランツエンとその秘書のフランス人リュシエンヌ・ミルボー(マール・オベロン)、英国人の教師J・スターリング、ソ連占領軍マキシム・キロシロフ中尉、フランス人実業家アンリ・ペローとドイツ人ハンス・シュミットという構成である。この多国籍人たちが誘拐された博士をフランクフルト市内で探し回る。これはラストの博士「地球が一つになるには、憎むべき星が必要だ。だが、希望はある。世界平和は訪れるさ」リュシエンヌ「世界が落ち着いたら皆でまた会えるわ」に代表されているように、各国・各国民間の融和を表現するためだが、5人が博士を探すという構成は物語に弛緩を与えている。
ロケ場所の破壊されたフランクフルトの廃ビール工場が良い(セットだとしても素晴らしい)巨大なビール醸造樽が乱立している。ロバート・ライアンは木樽の蓋が破れて樽の中に落下し格闘が続く。樽の底から樽の蓋の破れ目を通して上の人物を撮った仰角の映像が白眉である。
ヒッチコック「三十九夜」(1945)と似た描写がある。モグリ酒場の舞台の読唇術の女に「ハインリッヒ・ベルンハルトはどこだ?」とリンドリーが質問する。また、同じく列車もの「その女を殺せ」(1952・監督:リチャード・フライシャーの大傑作)に似た描写がある。反対のホームに停車した列車の窓ガラスに、こちらの列車内が映る場面。
博士の古い友人のヨハン・ヴァルター教授が持っている妻ヒルダがくれた「ハイデルベルクの塔のオルゴール」