小津安二郎監督の傑作「ニューデジタルリマスター版」
本作初見は1980年5月5日の銀座・並木座、その後何度も観ているが、本日観たのは「ニューデジタルリマスター版Blu-ray」で、映像の綺麗さはハンパないレベルのクリアさ。
内容も笑いあり、感動の涙流す場面あり……の小津安二郎監督作の中でも『東京物語』と並ぶ傑作。
(※)ただ、初見の学生時代は「映画館に来て何故こんなに日常風景を見せられなければならないのか?」と思ったものだが、年齢を経て再見したところ「こんなに家族関係や友人関係などの機微に触れられる映画は滅多に無い。大傑作ではないか!」と映画を観直して、映画の内容も見直した作品。若輩の自分には分からなかった世界がココにある。
この「ニューデジタルリマスター版」は、現存35mmオリジナルネガフィルムの4Kスキャニング[4K=4096×3112ピクセル]を経て、デジタル技術を駆使して丁寧なリマスター修復作業=【松竹と東京国立近代美術館フィルムセンターの共同事業】によるもの。カンヌ映画祭で初披露=ワールドプレミア上映され、大きな反響を受けた映画。
本作は、「妻に先立たれた夫」・「一人娘を嫁に出す父親」という小津安二郎監督が生涯を通して描いてきたテーマを、笠智衆・岩下志麻などなど多数の名優が出演して作り上げたもの。
赤と白の煙突が立つ工場の風景に続いて、会社勤務の“平山”(笠智衆)の部屋に、旧友の河合(中村伸郎)が「横浜まで来たから寄った」と言って訪ねてくる。河合は大洋ホエールズの野球観戦を夜予定していた。しかし、平山から「堀江(北龍二)が同窓会の件で、今晩、三人で飲もうと言って来たぞ」と言われた河合は「俺は、夜は野球観るからダメだ」と言う。すると平山は「野球なんかいつでも見れるじゃないか。三人で飲もう」と言うのだが、河合は固辞。
こうしたヤリトリを描いた直後に、その「夜の野球テレビ放映」の場面を飲み屋で知らない男達が見ているシーンが映る。更に、その直後、飲み屋の個室で平山と堀江と河合の三人が飲んでいる姿が映る。
……これらのシークエンスが実に絶妙すぎる展開で、観ているコチラは、どうしても微笑んでしまう。中村伸郎演じる河合が「野球観戦よりも友情を選んだこと」が微笑ましくもあり、人間関係を大切にする旧友たちの姿が心温まる。
三人の話題は「ひょうたん(=昔の学校の先生)を招いてのクラス会」であるが、河合は「俺は、ひょうたんは嫌いだ!アイツが来るなら同窓会には出席しない」と言うが、先のシークエンスから「河合は、そんなこと言っても同窓会出席するんだろうな…」と思ってしまう。
また、堀江が娘ぐらいの若い奥さんをもらった事も話題となり、「あの方の薬”も飲んでるのか?」という質問に堀江は「そんな薬飲まなくても大丈夫」と答える。すると今度は、(他の小津作品と同様)店の女性(高橋とよ)に「あんたのとこの旦那は“あの方の薬”は飲んでるのかい?」と尋ねる(笑)
……コレ、小津安二郎監督作ではパターン化していて、ホント楽しい(笑)
そして、「ひょうたんの同窓会」で昔の先生を演じるのは東野英治郎、風体冴えない老人を演じていて、彼の仕事は「チャンソバ屋(映画セリフ通り)」…この時代は「支那ソバ屋」で、娘は父親の世話をしていて嫁ぎ損ねた中年女性が一人いて杉村春子が演じている。
またまた三人と高橋とよの場面が出て来るが、最初は「平山と河合の二人」しか居ないので店員(高橋とよ)が「堀江さん、遅いですね…」と言うと、河合が「あぁ、堀江は死んだよ。今日は彼の通夜・告別式の相談をするんだ。そうだよな、平山」、平山は「そうなんだ。堀江は死んだよ」と言う。おかみさんは「えぇ~、ほんとですか?」と尋ねると……そのあとがホント楽しい(笑)
平山は自宅で娘=路子(岩下志麻)と息子=和夫(三上真一郎)と住んでいるが、家事はすべて路子がしている。そのため路子は「私が居なくなったら、この家はどうなるの?だから結婚はしない」と言っている。その言葉に甘えていた平山だが、旧友2人から「そんなのダメダメ、娘がお婆ちゃんになっちゃうぞ」と何度も言われて、平山も娘の結婚を考え始める。
平山の息子=幸一(佐田啓二)と妻=秋子(岡田茉莉子)が住んでいるのは「石川台」(…最寄り駅の看板より)の一室だが、この夫婦、冷蔵庫を買う話をしたかと思えば、夫がゴルフクラブを買おうとするのにダメ出しする妻。
岡田茉莉子が佐田啓二に物事をポンポン言うのが見事!
……平山家で、岩下志麻が家の中で、いろいろとポンポン言うのに似ている。楽しい。
平山の会社での姿も「実に人間らしい」。
秘書が結婚のため退職する……と挨拶に来れば、平山は「あとで、もう一回、ここに来なさい」と言う。そして「結婚祝いのお金を渡す準備」をする気持ちの温かさ。
この退職する秘書を演じたのは、牧紀子という女優だが、清楚な感じで綺麗。
本作について書き始めると止まらなくなるが、アチコチの記載で「その後どうなったの?」は出来る限り、記載しないようにした。
また、本作に出演している俳優は、上記以外にも三宅邦子・吉田輝雄・加東大介・岸田今日子など多数。
本作は、「観るタイミング=鑑賞時の年齢」や「個人的なツボの違い」などにより面白くないと思われる方もいらっしゃると思うが、自分は「大傑作だと思う者」になっている。
なお、このBlu-rayには【特典映像】として「特報」&「予告編」が収録されているが、小津安二郎監督が本作を演出している姿がカラー映像で収録されているほか、映画で使われなかったシーンも見られる。
<映倫No.12948>