サスペンスファンにとってはラストのどんでん返しで有名な作品らしい。確かに自分も驚かされたけど、中盤以降追い詰められていくヒロイン、キム(アン・バクスター)の様子に精神の破綻が見え隠れしてくるあたりから、これはひょっとして? と彼女に対しての疑いが生じてくる。そしてやはりそうだったのかという結末はだから溜飲の下がる思いもした。でも見終わってしばらくして疑問も生じてくる。
一人の女の嘘を見破るために警察が組織だってこんな芝居じみたことをやるなんてなんとも嘘臭いなあと。キムの実兄ウォードの事故死を不審に思った警察が父親の遺産相続がらみの殺人事件と疑い、妹のキムに罠を仕掛けるというあらすじなのだが彼女を追い詰めたあげく、「実は私が殺りました」と彼女から自白を引き出したとして物的証拠がなければ罪には問えないのではないか? などと強引なシナリオにスッキリしないものが残ることになる。
本作はしかし刑事ドラマのように正面から理屈建てて観るよりも、キムという女の二面性に着目してそこを楽しむ映画だと思う。それにキムは一介の女盗人などではなく大富豪の娘であり莫大な財産であるダイヤの行方という謎もあってそれを解き明かすために警察もやむなく大芝居を打ったのだろうと好意的に解釈する。
それにしても冒頭兄ウォードを名乗ってキムのもとに訪れるリチャード・トッドはどこから見ても怪しい男として現れる。これは観客をミスリードさせるための演出だったわけだ。
本来なら死んだはずの兄が帰ってきて喜ばなければいけないのに、彼女の表情は恐怖で引きつっている(まあ別人なのだから当然)。でもあとから思えばそこには自分が殺したはずなのにまさか、という恐怖もあったわけだ。
それからは遺産目当ての異常者たちがグルになって自分のダイヤを奪おうとしているという妄想にキムは取り憑かれてしまう。観客もキム同様の立ち位置に立たされてハラハラさせられることになる。だからこそラストのどんでん返しが効果的に決まる。
モノクロのミステリー作品はそれだけで見ていてワクワクさせるものがある。自分は何故か「十戒」を見てからアン・バクスターの密かなファンであって(「イヴの総て」ではないところがなんとも)彼女がヒステリーに駆け回る様子が見ていて痛々しかった。周囲が彼女をイジメているようにしか見えないのである。
ラストに製作者であるフェアバンクスjrが登場し、ご丁寧に観客に釘をさしているのには苦笑させられたけど。