谷中感応寺(現在は天王寺)にあった五重塔を題材にした、幸田露伴の同名小説が原作。
五重塔が建立されたのは寛永年間で、大工たちがザンギリ頭なのを見ると、本作の美術等の時代設定には若干違和感がある。
それを置いても残念なのは、主人公である十兵衛が単に自分勝手な男にしか見えず、兄貴分の源太に不義理してまで五重塔建築に執念を燃やす心情の機微が描かれていないこと。
物語は、五重塔建築を感応寺の御用を勤める源太が受託したのを、十兵衛が無理やり住職にねじ込んで仕事を横取りしようとし、住職の仲裁で二人で話し合うことになる。共同でやろうという源太の申し出を断り、仕方なく源太が譲ったにもかかわらず、協力を申出る源太を袖にし、独力で五重塔を完成させる。
嵐がやってきて、皆が心配するのを無視し、住職の依頼で仕方なく塔に行くと、既に源太が見回りに来ていた。謙譲の精神にあふれるばかりか、他人の造った塔なのに寺の御用職人の責任感とボランティア精神に富んだ職人気質の源太に対し、自分のことしか考えない我儘な十兵衛。
どっちが主役かわからない物語で、十兵衛の心の内が細やかに描かれていれば、十兵衛も主役になれたかもしれない。
その表面上の主役を演じるのが花柳章太郎。真の主役は柳永二郎で、十兵衛の女房に森赫子。
五重塔は実景とミニチュア特撮を組み合わせて撮影されているが、実景の五重塔が新築の割には風雪を重ねた風格を漂わせているのは仕方のないところ。戦後、焼失して現存していないのが惜しい。