2018年、公開50周年記念の4Kリストア作品上映が開催されたとき、修復を担当したクリストファー・ノーランとジェームズ・キャメロンが残したコメントが脳裏に焼き付いている。
「50年前の作品なのに、ほとんど修復の必要がない」と感嘆していた。それほどに撮影画像の精度が高く、ピント含めた被写界深度もしっかりしていたのだろう。
2018年当初、公開50周年記念は東京以外での公開が未定だった時、僕は東京までの新幹線を予約したほどだった。劇場鑑賞となれば2001年の「新世紀特別版」のリバイバルが最後だと思う。2018年版は、おまけに4Kリマスター、待望の70ミリニュープリントからリマスターされたIMAX規格上映とくれば行かない方が、どうかしている。
2018年、劇場公開時の予告編のコピー
「50年前—1つの作品が映画の概念を変えた」
しかし僕は50年前どころか40年前(小学校4年生)に、父に「この映画、観たい!小遣い要らんから、頼むから連れて行ってくれぇ!」と泣いて懇願したが叶わなかった(鬼)。
しかし今は劇場だけで数十回は鑑賞しているが何度観ても発見がある。そういう意味で、この映画は特別の特別で、今でも僕の生涯ベストワンだ。
最初の鑑賞は「スターウォーズ」のおかげでリバイバル公開の1978年。70ミリフィルム上映とスタンリーの指定した上映方式による164分の鑑賞が初見だった。「2001年」が劇場で観られるだけで興奮しているのに、オールナイトで3回、2週続けて通い、興奮しっぱなしだった(この時は70mmフィルム、アスペクト比1:2.20の再現上映)。
この映画はSF映画の革命だけではなく、「映画を観る」という行為さえも変えた。それは「スクリーンを凌駕した壮大な演劇」を観るようだった。
まず劇場に入ると入場曲が流れている。明るい中で流れているリゲティの「無限の宇宙」。ブザーと共に徐々に場内は暗くなり、真っ黒なスクリーンに困惑しているとライオンの鳴かない青いMGMマークと共に「ツァラトゥストラはかく語りき」がゆっくりと響きはじめて太陽、月、地球の「惑星直列」を背景に始まるタイトルバックから観客は一気に未知の宇宙オデッセイアに惹きこまれる。
・入場曲
・人類の夜明け(THE DAWN OF MAN)
・木星使節(JUPITER MISSION)
・休憩(INTER MISSION)
・木星 そして無限の宇宙の彼方へ(JUPITER AND BEYOND THE INFINITE)
・エピローグ(END CREGITS)
入場曲を合わせると、6部構成の途中、休憩が入り、クライマックスのエンドクレジットまでが、「2001年宇宙の旅」。劇場が明るくなるまで途中退場は許されない。以上で164分。UHDやブルーレイは入場曲、休憩を省いたバージョン。
400万年前の類人猿の前に突如、現れ「知性」を与えた黒い石板モノリス。
モノリスは類人猿(月見る者)に生きる上での知性を与える。それは武器を手にして相手を殺し、生物の頂点に立つ方法、ライバルを殺し、動物なら殺して食べ食料にする。
水飲み場のライバルを動物の骨を武器にたたき殺し、ボスになった類人猿(月見る者)は、近くにいた哺乳類を次々と殺し、彼らは食べる。これにより、人類の祖先は飛躍的に進化する。体が大きくなり、大脳が大きくなる。
そして長い進化の歴史の中で人間は他者を殺す、侵略することで文明は進化し人は、地球上の生物の頂点に立つ。
このシーンは類人猿が放り投げた骨がモンタージュで月に向かう宇宙船に変わるという400万年の間の人類の進化すべてが込められている。戦争、略奪、支配、殺戮、平和、国家すべて。
そんな21世紀も近い宇宙空間には宇宙ステーションが回り、アメリカ合衆国宇宙評議会のヘイウッド・フロイド博士は月のティコ火口で、信じられないものが見つかったという極秘情報の調査で、月に向かう。
ティコ火口から発見されたものは強い磁場を形成し年代測定で約400万年前に「意図的」に埋められたものだと分かる。
そう、類人猿たちに「知性」を与えたモノリスはTMA-1(Tycho Magnetic Anomaly)と名付けられ400万年の時を経て月にも「誰か」が埋めたものを人間が発掘する時代がきた。
TMA-1の滑らかで傷ひとつない表面にフロイド博士が触れたら突然、強い信号が発せられ激しい頭痛に襲われる。
その信号は木星に向かって発せられている。
これは人類が発掘したときに類人猿が、そこまで進化したことを知らせる信号が木星に向けて発信されるために「誰か」が埋められた発信機ではないかという仮説を感じる。「誰か」とは地球外生命体。
この件に関し、スタンリーは沈黙しているがアーサーが、それを示唆するコメントを残している。
「もしも人類が自分たちの叡智を超える存在に出会ったとき、それは神と思えるかもしれない」と。
その調査のために18か月後、宇宙船ディスカバリー号(正確には2号)は船長のデヴィッド・ボーマン船長とフランク・プール隊員以外はハイパースリープ(人工冬眠)の中、人工知能HAL[ハル]9000型コンピュータ(以下、HAL)とともに木星に向かう。何度か観ていると、この映画、セリフが40分しかないが重要な会話と見事な映像で二人の人間とHAKとの会話が、だんだんとおかしくなってくることに気づく。
それはHALとボウマン船長の会話から始まる。
HAL「デイブ、個人的な質問をよろしいですか?」
デイブ「いいよ」
HAL「今回の任務について疑問を抱いていませんか?」
デイブ「どういう意味だ」
HAL「月で何か掘り出したという妙な噂が。私は信じなかったが一連の出来事を照らし合わせると、私の理性では否定が困難に・・・ちょっと待って。ちょっと待って。00分後にAE35ユニットが故障します。」
この会話で人間らしい表現とAIとは思えぬ疑問を抱くのはHAL。ボウマンは、ただ無表情で聞くだけ。そしてHALは自分の疑問を提示したことを、ごまかすかのようにAE35ユニットが故障するという「嘘」をつく。
ここからHALは明らかに異常をきたしていく。
だんだんと人間らしい部分、矛盾が出てくる。突き詰めれば他者を殺しても自分が生き残ろうとする生存本能か。かつてTMA-1が類人猿や月面の人間にそうしたかのように。
HALのミスを不審に思った二人はスペースポッドに乗り込みHALの回線を切って、二人は協議する。HALの判断を疑った二人はAE35ユニットを元に戻してボウマンとプールはHALの「思考部」を停止させることを決める。
ここで私たちはHALが外部から二人の唇を読んで会話を理解しているという恐怖を知る。
HALはAE35ユニットを戻すために船外活動中のプールの宇宙服を破壊し、同時にハイパースリープ中の全員を殺す。
ハイパースリープ中の船員が殺されるシーンは呼吸数、脈拍などの数字が表示されているパネルの数値がゼロになるという表現で、今までにコンピュータによる経験のない殺戮の恐怖を味わう。
船長のボウマンは木星起動近くでたった一人の人間になる。
彼は船内への入室を拒否するHALを無視して緊急爆破ユニッ