愛を貫く木石女の物語だがアナクロニズムは逃れがたい
舟橋聖一の同名短編小説が原作。
木石は、木や石のように情を解さない、人間らしい感情を持たない者のことで、主人公の追川初(赤城操子)のこと。
初は40代のオールドミスで、感染症の研究所で実験動物の管理をしている。附属病院の医師や看護婦からは木石と陰口を叩かれているが、ある日、若手研究者・二桐(夏川大二郎)の助手に任命され、後継のために娘の襟子(木暮実千代)を手伝わせたことから、周囲は初めて初がシングルマザーであることを知る。
襟子は初と研究所創設者・有島(山内光)との間の子供ではないか、と附属病院の連中が噂しているときに有島が逝去。果たして襟子は誰の子か? という謎含みの展開となる。
襟子と二桐の仲が急接近。二桐がプロポーズのために初を訪れ、襟子の出生の秘密を知ることになるが、事故から初が実験動物に噛まれて感染。臨終の間際、初の有島への真実の愛を二桐に語り、同様の愛を求めて襟子を託す。
襟子は初の子ではなく、有馬のために初が引き取って育てた娘で、それこそが初の有馬への愛であり、同時に初自身が純潔を貫いたことが愛の証というように終わるが、現代感覚からするとたぶんに初の独りよがりで、初の心情を理解するにはやや忖度が必要。
それ以上にフィルムの音声状況が劣悪で、台詞が聞き取りにくいので、これまた忖度が必要。
木石には木石なりに陰となって生きなければならなかった女の人生があったというお話で、ラストシーンは晴れて木石とはならずに愛に生きる若いカップルの誕生というハッピーエンドだが、アナクロニズムは逃れがたい。(キネ旬10位)