「龍驤虎搏の巻」に続く鞍馬天狗シリーズ、「江戸日記」であります。何となく縁側で寛ぐやうな長閑なタイトルですが、相変らず幕末の勤皇佐幕の争ひが中心であります。監督、脚本は引き続き夫々松田定次、比佐芳武で、音楽も同じく高橋半。
佐幕派の根岸丹後守(河部五郎)一党は、新政府樹立を目指す志士たちを次々と暗殺、のみならず強盗や強請り集りなど、ゴロツキ集団と化してゐました。佐竹主水之正(藤川三之祐)もその一味でしたが、目的から逸脱した行動に疑問を持ち、丹後守との意見の相違を見ます。
それで狙はれた主水之正、丹後守と結託してゐる振武館の折井新助(仁礼功太郎)の門下生たちに誘き出され暗殺されるのでした。その様子を目撃してゐた男がゐて、それは鞍馬天狗(嵐寛寿郎)と同じ長屋に住む大道易者で、野襖の吉五郎(香川良介)でした。
主水之正の息子・恵之助(尾上菊太郎)は父と敵対する立場の新政府運動に参加してゐた為に勘当されてゐましたが、叔父の春日井右京(志村喬)から父の死を伝へられ、家に帰ります。しかしお家断絶を恐れ、家では病死を云ふ事になつてをり、恵之助の仇討は表立つて出来ません。
吉五郎から話を聞いた天狗は、振武館へ出向きますが折井は不在。それを承知で道場破りをして看板を持ち帰ります。天狗は折井の襲撃を予想し、家を空けて空振りさせ、逆に振武館の隠れ家に入り込む。一方恵之助は仲間の鹿塩藤蔵(原健作)と共に折井一味を襲撃したところ逆に追詰められ、危機一髪で鞍馬天狗が登場、救はれるのです。
やる事なす事上手くいかない丹後守=折井コンビは、丁度天狗を慕つてやつてきた角兵衛獅子の杉作(宗春太郎)と新吉(旗桃太郎)を人質に取り、更に吉五郎を脅して天狗を裏切りさせます。その奸計の為、天狗は誤つて杉作を撃つてしまふ......!
当時37歳のアラカンの殺陣はアブラが乗り切つてをり、戦後の映画では見られないキレを見せてゐます。アラカン天狗の大活躍、敬語で慇懃無礼に道場破り、敵を誰何し「帳面に付けておかう」、ワルの顔にイタヅラ書きの茶目ぶり、クライマックスでは弓矢の腕も披露、そして子供を利用するワルに大激怒して、二刀流の大剣戟。その殺陣は物凄いスピードで迫力満点であります。
このままワル退治で終るかと思つたら、最後はまた形勢逆転、敵方の鉄砲に囲まれて絶体絶命状態。そしてそのまま「終」。アレ、前後篇でしたか。続く「鞍馬天狗 復讐篇」(「恐怖篇」となつてゐる文献もあり。kinenoteも同じ)と云ふのが後篇に当るやうですが、未見なので眞に残念。尻切れトンボでした。あと、鞍馬天狗の初登場時では、野外のシーンをセットで撮つてゐるのか、ホリゾントに影が映つてゐて気になりました。以上。