「噂の女」で溝口健二にハマった私だが、戦後の作品を見つくしていくうちに、どうにも歯がゆかった。
100%納得出来る作品に出会えなかったのである。
そして戦前の「残菊物語」に涙し、「愛怨峡」に感心し、「瀧の白糸」に心打たれ、溝口の真価は戦前にあるのだと悟った。
聞けば本作はモーパッサンの「脂肪の塊」の翻案だという。
しかしウイキペディアの「脂肪の塊」のあらすじを読むと、「マリヤのお雪」(川口松太郎の原作?)には、エピローグと呼ぶには重すぎる終章が加えられているようである。
男と女を描いて、メロドラマとは次元の違う物語を紡ぐ。
小津安二郎は1936年の「一人息子」からトーキーになった。
「マリヤのお雪」はトーキーであるが、音楽の使い方などには素晴らしいものがあり、1935年にして完璧にトーキーをものにしている。驚くばかりだ。
個人的には「祇園の姉妹」「浪華悲歌」より好きだ。
山田五十鈴も、こっちがいい。
ps. 本作の山田五十鈴を見ていて、「駅馬車」のクレア・トレヴァーを思い浮かべていた。
ウィキペディアを読んだら、ジョン・フォードが「駅馬車は《脂肪の塊》だ。」とピーター・ボグダノヴィッチに語ったそうで、驚きましたデス。
*公開題名、VHS題名は「マリヤのお雪」