役作りしなくていいE・グールドとJ・クリスティ。
ネタバレ
最初に観た時はDVDの時代で、レンタル店で借りた。カントリーミュージックは聴かないことや、長尺で
あることと合わせて、今ひとつピンと来なかった。しかしなんとも言えない浮遊感やブラックユーモアに
魅了されたことも事実。その頃はレビューを書く習慣がなかったので、再度鑑賞として先送り、その時に
ザワつく気持ちを落ち着かせようとした。
テネシー州ナッシュビルにカメラを持ち込んだの理由は、国際都市のNYやLAでは描くことの出来ない
アメリカの原風景をとらえることにあったのではないか。70年代といえば、日本の私でもスティービー・
ワンダーやイーグルスを聴いていて、古色蒼然としたカントリーミュージックには見向きもしなかった。
ところが世界がどうであっても、ナッシュビルはカントリーミュージックの都なのだ。大御所ヘヴン・
ハミルトン(ヘンリー・ギブソン)は、建国200年記念の曲を録音中だった。
映画は星条旗をはじめ、トリコロール色彩や★が使われる。そして大統領予備選挙に出馬するハル・
ウォーカー候補の選挙広報車がナッシュビルを走り回る。監督の指示で、この選挙カーと運動員は
堂々とカメラに入って来る。大統領選挙はアメリカの自由と民主主義の象徴、映画はこれを通奏低音
として全編にはりめぐらせる。
映画は英国BBCのレポーターのオパール(ジェラルディン・チャップリン)が、ナッシュビルを訪れドキュ
メンタリー番組の取材の録音を始める。彼女の眼を通してのアメリカ像も加わる。交通事故のシーンは
大きなボディの、いわゆるアメ車ばかり。70年代が見納めとなり、アメリカの製造業は曲がり角を迎える。
そういった意味では、良きアメリカの晩鐘の映画とも言える。
20数名にも及ぶメイン・キャラクターがパルテノン広場に集結する。ウォーカー候補を推すミュージシャン
がコンサートを開く。暗殺という会話が伏線となり、圧巻のクライマックスとなる。
複数カメラ、ピンマイクによる同時録音、演出を感じさせない俳優たちの自然体は、アルトマン監督
なしでは成立しない。群像劇としてアルトマン流の演出が確立し、今まで観たことのない俳優たちの
アンサンブルとなった。