森の鍛冶屋

もりのかじや|----|----

森の鍛冶屋

レビューの数

6

平均評点

57.5(14人)

観たひと

25

観たいひと

3

基本情報▼ もっと見る▲ 閉じる

ジャンル ドラマ
製作国 日本
製作年 1929
公開年月日 1929/1/5
上映時間 (10巻)
製作会社 松竹キネマ(蒲田撮影所)
配給
レイティング 一般映画
カラー モノクロ/スタンダード
アスペクト比 1:1.33
上映フォーマット 35mm
メディアタイプ フィルム
音声 無声

スタッフ ▼ もっと見る▲ 閉じる

監督清水宏 
脚本村上徳三郎 
原作村上徳三郎 
撮影佐々木太郎 

キャスト ▼ もっと見る▲ 閉じる

解説 ▼ もっと見る▲ 閉じる

【スタッフ&キャスト】原作:村上徳三郎 脚本:村上徳三郎 監督:清水宏 撮影:佐々木太郎 出演:井上正夫/結城一郎/押本映治/田中絹代/日夏百合絵

あらすじ ▼ もっと見る▲ 閉じる

キネマ旬報の記事 ▼ もっと見る▲ 閉じる

2023/09/05

2023/09/05

60点

VOD 
字幕


雨風にさらされながらも

夏,少年が三人,河原の木の上にかかったらしき風船を見上げている.少年のうちの一人,次郎(小藤田正一)は,さらにその木に上り,兄が手を差し伸べて助けようとするその動作も虚しく,木から落下している.死んではいないが,意識もない.村の道を次郎の父(井上正夫)は次郎を抱えて,少年たちと走っていく.キャメラはドリーバックしているので,父たちは迫力をもって延々とこちらに向かってくるように感じられる.
次郎は,後遺症で歩けなくなって,兄におんぶされ,移動している.「ちんば」「片輪」などと周囲の少年たちから罵られている.弟の足の回復のためにも,兄は医者になると宣言し,それから12年が字幕によって経過する.電報があり,汽車に乗る女(岡村文子)と男のカップルは結婚とその資金について相談している.そこには一郎(押本映治)や一郎の村の村長の息子の富作も同乗している.帰省した一郎は,母の豊野の霊前で父たちと並んで母に挨拶をしている.それは母側から撮られ,異様なショットにも見える.
川にかかる一本橋でお光ちゃん(田中絹代)は,シルクハットのちょび髭という出立ちの富作に言い寄られている.村の役場では寄付金についての会議が行われ,その現金は麻袋に入れられ,さらに金庫に入れられようとしている.しかし,寄付金は盗まれてしまい,その場にいた一郎は嫌疑をかけられる.その補填のために8000円を融通しようとしている父がいるが,さらに一年後,森の土地と屋敷は抵当に取られたらしく,ボロい家で父と次郎(結城一朗)は鍛治に精を出している.ものすごい風と雨とが,この鍛冶屋の父と兄弟に吹き付けている.
富作へ嫁いだお光が祝言をあげている.そのめでたい席を狙ってか,一郎は,寄付金を盗んだ犯人を指摘しに乗り込んでくる.やはり風が吹いている.汽車が下手から上手へと走って抜けていく.雨風に歯向かうことは虚しくあるが,不吉な境遇や無理解への反骨が母というもう一つの骨格を通じて感じることができる.

2022/09/26

-点

選択しない 


想像力を膨らませて見るフィルムの欠けたサイレント映画

 村の鍛冶屋の長男が次男をけしかけて木登りで脚を片端にしてしまい、弟の脚を治すために医者になって帰ってくるというサイレント映画。
 村長が村人から集めた金を金庫に入れたところ、金がなくなり長男の帽子が置かれていたことから犯人に疑われ、鍛冶屋の父が土地・屋敷を売って弁償しようとする。
 長男は証人を探して身の潔白を晴らし、めでたしめでたしというのがあらすじだが、現存するフィルムは18分余りの短縮版のみとあって、それ以外がよくわからない。
 真犯人は村長の息子で、その遊び友達のカップルがそれを知っていたということらしいのだが。
 村長の息子は村娘(田中絹代)にご執心だが、村娘は鍛冶屋の次男と仲が良い? 長男は村長の娘と結婚して丸く収まる? など、想像力を膨らまさないと解読できず、かといって取り立てて見どころがあるわけでもない。

2020/11/06

2020/11/06

36点

VOD/YouTube 


サスペンスは必要だったか

 現存する清水監督作品としてはこれが最古らしい。兄弟、親子の絆を描いたものだとは思うが、兄が濡れ衣を着せられる辺りに意外とサスペンス色漂っている。しかし、サスペンスは別になくても…歩けなくなった弟を助けるために医師を志す兄、そのふたりの信頼関係に焦点を当てればそれで良かった気がする。ちなみに弟の脚が治ったであろうことが、終盤で確認出来る。タイトルにある「鍛冶屋」の存在感が希薄になってしまっている感が否めない。仕事場で失火して村を追われる―という設定だそうだが、現在確認出来るプリントでは、それがわかり辛い。

2020/06/30

2020/07/01

-点

その他/古石場文化センター 

『森の鍛冶屋(1929年、松竹)』。無声、活弁付き。現存するのは約19分。かなり状態が悪いフィルム。とある村で金が盗まれる事件勃発。疑いをかけられる主人公(押本映治)。田中絹代は少女のようにかわいい。残念ながら出番は少ない。自然の中で遊ぶ子供ら。名子役・小藤田正一は次郎(少年時代)役。

2013/06/05

2016/04/03

73点

映画館/東京都/東京国立近代美術館 フィルムセンター 


明るい作品ではない

清水宏44本目の監督作にして、現存する最古の作品。失火から村を追われた鍛冶屋の、二人の息子の物語。鍛冶屋を嫉妬する村長を悪役にして、冤罪を物語に織り込んで、娯楽性を高め、ハッピーエンドとはいえ、明るい作品ではない。ダークな面を織り込む清水宏の作風は既に伺える。

2013/06/28

2014/07/10

35点

映画館/東京都/東京国立近代美術館 フィルムセンター 


物語職人としての安定

ネタバレ

現存する最古の清水宏作品ですが、本来は10巻ものであったのに対して、現存プリントは4巻もの(16fpsで30分)のダイジェスト版ですから、どうも話の起承転結をまとめる部分だけを見せられている感じになり、清水宏らしさを感じるところはあまりありませんでした。
物語の設定は、「映画読本 清水宏」の表現を借りれば、“鍛冶屋の池田恭助は、仕事場から誤って失火し、冷酷な村長松岡幸作によって村を追われ、森の中で生活していた。が、温厚な人柄で村人の信望があり、村長はその人望に嫉妬していた。”というものですが、この部分を上映プリントでは全て字幕で説明してしまっており、わたくしたちが目にする場面は、井上正夫扮する主人公の鍛冶屋が、家の中で刃物を鋳造しているところです。
続く場面は、鍛冶屋の息子二人が戸外で村長の息子や隣家の娘と遊んでいる場面ですが、清水らしい戸外の開放感は画面からは漂っておらず、ごく普通の戸外ロケにしか見えません。ともかくこの戸外で、鍛冶屋の次男坊が村長の息子から“臆病者だからこの木に登れないだろう”などとけしかけられ、小藤田正一扮する次男坊は木に登るものの、上から落ちて脚を怪我してしまい、その後弟はクラスメイト(村長の息子を含む)などからビッコ呼ばわりされて、次第に卑屈になり、兄は弟の脚を治すため医者になろうと決意します。
10数年後、兄・押本映治は医者となって村に帰ってきますが、帰りの汽車の中で既に怪しげなカップル(河原侃二と情婦の岡村文子ですが、岡村の若さに驚きます)が登場している上、村で下車した二人が村長の息子・小村新太郎とツルむので、観客は小村への疑惑を強めます。このあと、村の寺の修復基金が盗まれる事件が起きて兄・押本が犯人として疑われて村を逃げ出しますが、金が盗まれる場面で金庫番をしていた小村の怪しげな視線(小村のアップと金庫の中の金をオーヴァーラップで繋ぎます)が示されますので、観客は話の先が読めてしまいます。じじつ、小村が鍛冶屋の隣家の娘・田中絹代と結婚式を挙げる(本当なら鍛冶屋の弟・結城一朗と親しい仲でしたが、経済的な支えを求めた父が村長の息子との縁談を進めたという設定が、字幕で説明されます)その当日、逃げていた兄・押本が河原侃二や岡村文子を伴って現れ、小村の悪事を暴くという、いかにもご都合主義的な展開となります。
1929年1月5日公開という正月映画であり、新派の名優と言われた井上正夫を主演に招いた上、妻に二葉かほる(映画が始まって間もなく死んでしまう設定)、息子に押本映治と結城一朗、次男の恋人に田中絹代、村長に藤野秀夫、息子・小村新太郎など、当時の蒲田オールスターを揃えた映画で、後に我々が呼ぶ清水らしさとは違った、物語職人としての安定こそが求められていたであろうと想像すれば、この映画はそれなりの成果を挙げているとも言えるのかも知れません。