8分の映像からマキノ正博のチャンバラ演出の神髄が覗く
江戸の長屋に住まう浪人たちを描くチャンバラ時代劇。15巻のサイレント映画のうち、8分が現存。
8分は終盤からクライマックスにかけてで、ストーリーはわからないが、多人数による大掛かりな殺陣が描かれていて、公開当時人気だった本作の片鱗を見ることができる。
お新(大林梅子)が子恋の森で旗本たちによって牛裂きの刑になるという知らせを持って、おぶん(岡島艶子)が荒牧源内(谷崎十郎)に伝えるシーンから始まり、源内が子恋の森に駆け付けて大勢の旗本たちを相手に孤軍奮闘。そこへ浪人仲間の母衣権兵衛(南光明)が馬で、おぶんの兄・土居孫左衛門(河津清三郎)が走って駆け付ける。
出世のために旗本側についていた赤牛弥五右衛門(根岸東一郎)も浪人たちとの友情を選んで、3人に加勢。お新を助け出した3人を逃がして、一人旗本たちの前に立ち塞がり、最後は致命傷を受けて果てる。
終盤の8分はスピーディで、旗本たちを相手に剣を振るうシーンを俯瞰で捉えるカメラや、移動カメラで追うシーンは迫力満点。マキノのチャンバラ演出の神髄が楽しめる。
赤牛が旗本側から浪人側に付くシーンでは、当時の観客に受けた「裏切ったか!」という台詞に「表返っただけだ!」という返しも登場する。
劇画の書き文字のようなサイレントの字幕も臨場感があり、一部は映像に被るというエンタテイメントの時代を先取りしたセンスがいい。(キネ旬1位)