何の変哲もない日常を淡々と描く映画・・・。美しい映像と魅力的な登場人物。きめ細かい心理描写に共感し、インテリアや自然を見る愉しみがゆったりとした時間に癒されつつ、心を豊かにさせてくれる作品。
アメリカの女流作家ガートルート・スタイン(彼女の本を無性に読みたくなった)と、秘書のアリス・トラスクが暮らすフランスの家。年配の女性の住む家らしく、暖かくて居心地のいい部屋。彼女たちは2人で、文章を校正しあい、お茶を飲み、ラジオの修理や裁縫をし、ピクニックに行ったり、ガーデンパーティーを催したり、お芝居の練習をしたり、昼寝をしたり、月の出を待ったり、怒ったり、笑ったり。こんなごくごく日常生活を楽しんでいる(余談だが、印象に残っているのが、アリスが自分とは違う宗派の教会に懺悔に行くシーン。個性の強いガートルートにガマンできるアリスは聖人だと周囲から言われることについての不安を語ると、「聖人になるには改宗しなさい」とトンチンカンな答えを出す牧師(司祭か神父と言うべきか?)に、シニカルな笑いを覚えた)。
大きな事件は何も起こらないが、彼女たちの周囲(アポリネール、ピカソ、ヘミングウェイなど今をときめく芸術家が揃い踏み)には死の影のような重大な問題が潜んでいる。それでも彼女たちの時間は彼女たちのペースに合わせてゆっくりと進んでいる。私もこんな豊かな生活(物質的にではなく、精神的に)を送りたいと痛いほどの憧憬を胸に、2人と一緒に月の出を待ちたい・・・。