井土紀州監督作品であるが、「ラザロ」に見られた魂の叫びはない。弛緩している。カラオケ屋でアルバイトをしている芸人くずれの青年が、引っ越し先で出会った女性と簡単に肉体関係に陥るが、二人に恋愛感情は育たない。女性には別れた不倫相手に対する思いが抜けきらない。二人はこれではいけないと未来を見つめるが、なかなかうまくいかない。そうした男女の生態を丹念に描き、息苦しくなるほどだ。女性は不倫相手との情事を再開するが、優柔不断の男は自分の息子に襲われる。ある一つの人生の断面を男女が好演し、罪深い人間の業を感じさせるが、映画としてのインパクトがいま一つ弱い。