中学1年生のとき、休み時間に何気なくサイモン&ガーファンクルの
「サウンド・オブ・サイレンス」を口ずさんでいたら、「卒業ね」と、微笑みながら
語りかけてくれた女の子がいたのでした。まあ、随分、おませな中一の
会話ですが・・・で、その女の子こそ、何を隠そう、好きだったT子さんだったのです。
「卒業って、何だよ」わざとぶっきらぼうに答える、坊主頭のか弱き13歳の僕。
「えっ?ダスティン・ホフマンが花嫁を奪っていくやつ。知らないの?」
眉をひそめながら、気怠そうに言うT子さん。
「知ってるよ」
知るわけがない。曲は知っていたものの、それが映画の主題歌であったとは・・・
偶然というのか、その数週間後だかに荻昌弘さん解説で有名だった
TBS「月曜(確か、月曜だったと思う)ロードショー」で「卒業」が放映されたので
僕は、T子さんと少しでもお近づきになろうと邪心のみでその作品を見ることに
したのでした。
鼓動が高鳴り、身体の芯が熱くなっていきました。時間の流れと共に気持ちが
高揚していくのがわかったのです。エンディングとなっても、そしてそれから何日間も
重苦しいような、それでいながら気持ちが熱くなるような余韻が残りました。
そんな具合になったのは、サイモン&ガーファンクルの曲が効果的に挿入されていた
からかもしれません。
「ミセス・ロビンソン」「四月になれば彼女は」・・・
しかし、何と言っても「スカボロー・フェア/詠唱」が印象的でいつまでも
頭の中を駆けめぐっていくのでした。
ストーリーを少しだけ。一流大学を卒業したんですが、空虚感に苛まれる
ベンジャミン(ダスティン・ホフマン)は、卒業パーティの席で知り合った両親の
友人でもある中年女性ロビンソン夫人(アン・バンクロフト)に誘惑されて
それを拒むことが出来ずに関係を重ねることになります。しかし、ひょんなこと
からベンジャミンは彼女の娘エレン(キャサリン・ロス)とデートをすることに。
ここから物語は奇妙な三角関係を軸に進んでいくことになるのです。
アン・バンクロフトの熟した演技と、ダスティン・ホフマンの斜に構えた演技が
うまく絡み合い、そこに愛くるしいキャサリン・ロスの美しさが加わって
コミカルにシリアスにシニカルに作品はできあがっています。それぞれの
人物の感情の揺れ動きがわかりにくい面もあるのですが、それが無視できるぐらい
存在感ある演技でした。
さて、どうでもいいのですがT子さんとのその後。それが今の女房です。なんて
ことだったら実にうまい、いい話になるのですが、以来30年近くになりますが
T子さんとはお目にかかっていません。
中二になって僕は別の新設中学校に編入することになり、特にお別れの言葉を
交わしたという記憶もなく、テレもあったのでしょうか、連絡をするということも
ありませんでした。でも、「卒業」はそれから10回ぐらいは見ています。
薄れいくT子さんの面影を瞼に浮かべながらながら・・・