1日は24時間以上であるとされる.お金がない人々が住む,何もない町として紹介され,昼夜を問わず,キャメラはこの町の悲喜こもごもを追い続ける.
吊されたタイヤで遊ぶスカウト(メアリー・バーダム )がいる.ツリーハウスから見下ろすジェム(フィリップ・アルフォード)がいる,彼女と彼の元にやってくるディル(ジョン・メグナ)がいる.少女や少年たちは,木の上か,タイヤという眼鏡から,この町を俯瞰し,のぞき,観察をしている.この町の持っている時間は,男たちによって計られているようである.懐中時計をスカウトに見せびらかすアティカス(グレゴリー・ペック)は,弁護士でもあり,何でもうまく説明ができることを得意にしていると子どもたちには思われている.こうした男たちのあるいは白人たちの時間と関わりがないせいか妻のキャルはそれほど画面に登場するわけではない.
時計を見ると,午後8時30分であることが告げられる.この町に問題の起こった8月21日をめぐって,法廷では深刻なやり取りがなされている.二階席の黒人たちが詰めており,その中には法廷を俯瞰的に見下ろす子どもたちの視線も織り込まれている.メイエラ(コリン・ウィルコックス)のレイプ事件で容疑者はトム(ブロック・ピータース)として訴えられており,それをアティカスが弁護している.メイエラの父(ジェームズ・アンダーソン)は読み書きはできる.トムは左手は使えない.しかしアティカスによれば,極貧と無知の犠牲者として罪の中にあるとされる原告のメイエラは法廷で喚き始める.被告のトムは汗をかき,自らの真実について言い淀んでいる.陪審員の前で熱弁を振るうアティカスと同じフレームに陪審員たちは入っていない.彼は誰に向かって訴えかけているのだろうか.
スカウトはワンピースを着ることをとても嫌がっていて,学校で男まさりの喧嘩を繰り返す.喧嘩の原因は父アティカスの黒人弁護にもある.スカウトやジェムの成長に影響を及ぼすのは白人の隣人とも言える黒人ばかりではない,アティカスら一家の隣人でラドレーさんが忍び寄る者たちに銃をぶっ放す.そのラドレー家には,ブーという怪人がいる.彼は物陰に佇みつつも守護霊のように終盤に見え,そして隠れる.リスとウサギを食べている家があって,狂犬病の犬が路上で狂っていて,アティカスは眼鏡を外し,銃で撃ち殺してる.「黒人びいき」だとジェムの乗る車に忍び寄る男もいれば,夜の町を子どもらが走っていると,黒い車で走る大人たちもいる.こうした不穏がこの町にはあり,他者たちのこの世界において,謎のように木の穴に木彫りの人形が見つかる.ジェムはその穴から時計やナイフなど色んな物を見つけている.
10月の風が吹いている.ハロウィンでスカウトはおかしな着ぐるみを着ている そのために一つの穴によって視界が遮られるスカウトがいる.彼女はいつの間にか,あの木の穴の中の謎の小物のように,その穴からもう一つの世界,いわば外の,他者の世界をのぞき見ているのである.