2021年2月20日に鑑賞。DVDにて。1時間28分48秒。ビスタサイズ・テクニカラー。EMI=ABP(Associated British Productions)。
ロジャー・ムーアの演技が冴える。ロジャー・ムーアは実は演技派なんですね。良く分かりました。
1950年代にTV「ヒッチコック劇場」でトム・イーウェル主演で映像化されたアンソニー・アームストロング原作「The Case of Mr. Pelham 」のリメイクである。もちろんヒッチコック・タッチの影響を受けている。ジャック・フィニイ原作「盗まれた町」やマリオ・バーバ「呪いの館」(1971)の影響もあると、解説でジョー・ダンテとスチュアート・ゴードンが述べている。
1970年ロンドン。ミニスカートが全盛である。ペルハムの会社『フリーマン・ペルハム&ドーソン海洋工学機器 Marine Engineers Incorporating Electronic Developments & Navigational Aids 』
このラストからは、真のペルハムが偽物とされて、もう一人のペルハムに追われて死ぬことから、原題「The Man Who Haunted Himself」よりは「The Man Who Was Haunted by Himself」の方が相応しい。
一番興味深い場面。ドクター・ストレンジラブのような黒いサングラスをかけた精神科医者ハリス(フレディ・ジョーンズ)と面会したペルハム。椅子に座るペルハムと脇に立つ医者。床からカメラが見上げてカメラが回転し天井が回る。回転椅子が回りペルハムの体も回る。医者は同じ位置に立っている。部屋がグルグル回る。このシーンが白眉である。医者「『ソジーの錯覚』だ。フランスの医者カプグラが精神病と認定した。替え玉の妄想だ。あなたは自分自身が替え玉であるという自覚がない」
ラストの説明はこれで良いのか?もう一人のペルハムが真のペルハムに語る「私は君なんだ。君は手術台で死んだ。少しの間君は本当に死んでいて、それが私を呼び起こした。不幸にも君は命を吹き返した。だから今我々は2人いる。これは続かない。1人が行かねばならぬ」真のペルハム「何てこった!お前は誰なんだ!」もう一人のペルハム「ペルハムだ」病院のベッドでペルハムの心臓が停止する。その後に計器の心拍計の線が2つ出る。医師が計器を手で叩くと線が1つになる。
家を出た真のペルハムの黒い車をもう一人のペルハムの青い(シルバーの)車が追う。雨中のこの車の追跡シーンは良い。真のペルハムのバックミラーに妻が映る。2人の息子が映る。プールの写真家の女ジュリー(オルガ・ジョルジュ・ピコ)が映る。例のストライプのネクタイが映る。もう一人のペルハムの笑い声。真のペルハムがミラーを割る→ミラーに映るマルチ映像。真のペルハムの車が川へ転落する。橋の上のもう一人のペルハムが心臓を押さえるが・・・死なない。完全に乗り替わった。
これは、また中年の危機の話でもある。ベッドの妻イヴ「電気を消し始めるのは、中年の始まりだと・・・。私が寝かせてあげるわ」真のペルハム「妻と余りセックスしなくなるだろ」妻「あなたにセックスを求めてはいないわ」ペルハム「もう1人子供が欲しいのか?」妻「そうは言ってないわ。私たちは慣れ合いになってるわ」セックスを求める妻に応じることが出来ない真のペルハム。一方、もう一人のペルハムはパジャマの胸をはだけて妻のベッドへ。微笑む妻。ここのムーアは後年の007である(笑)
医者ハリス「あなたのセックス拒否に顕著に現れている。あなたの性格の別の部分を解放してほしい。(ダークスーツ、帽子、ステッキなどの)慣習の虜ではいけません」→真のペルハムはピンクのカッターシャツに明るいスーツとネクタイで出社する。これが真のペルハムを不利にする。真のペルハムと自宅で対峙したもう一人のペルハム「あんな女っぽいネクタイ、俺がするか?」と同僚アレックスに言う。妻と息子が現れる「あの人パパにそっくり。誰?」アレックス「ペルハムの真似をしていた男だ」真のペルハム「陰謀だ!俺を狂わせようとしている」こうなると、明るいスーツ・ネクタイが裏目に出て、もう妻・息子・同僚に信じて貰えないね。
「Take care.(気を付けて)」、LPレコードとプレイヤー、ペルハムのマッチ棒を折る癖。スヌーカー。宝石の首飾り=宝石商「レディ・ハミルトンの持ち物でした」、写真家ジュリー・アンダーソンの部屋に浮世絵の図柄のドア絵。1666年のロンドン大火の記念円塔。ロンドン・プラネタリウム。もう一人のペルハム「EGO社の社長に。年俸5万ポンドと自社株3万株を貰う」