香港映画界を代表する監督/プロデューサーのバリー・ウォン。彼は観客のニーズに迎合した徹底したエンタテインメント至上主義と、時流に乗った題材を巧みにパクる旺盛なパロディ精神によって香港映画界を牽引してきた。90年代には彼の作品が香港映画界の総売り上げの30%を占めるとまで言われた。
交通事故で恋人を失った医師、トニー・レオンが主人公。恋人を死なせた暴走車の行方、昏睡状態の患者に思いを寄せる同僚、銀行強盗の治療を故意に後回しにしたのではないか、という遺族からの訴え、これら複数のエピソードを描いた群像劇…と思いきや、目を覚ました患者とトニーとのラブロマンスが展開する。
トニーと同棲を始めた彼女が、トニーの部屋を模様替えしてしまう件は『恋する惑星』を彷彿とさせ微笑ましい。ベタな展開とはいえ安心感がある。
『ER』を想起させる群像劇的展開と思いきやラブロマンスに集約されるストーリーに文句をつけるのは筋違いだろう。こちらが勝手に群像劇と思い込んでいたのだから。しかししかし、暴走車の件や医療裁判の件がメインのストーリーとからみもせず、あたかも投げやりに処理されるのはいかがなものか。伏線などほったらかしなんである。
新居と仕事を見つけた彼女はトニーの部屋から出ていく。しかし彼女は脳に腫瘍があり再び倒れる。トニーが執刀した手術は失敗。彼女はトニーに別れを告げる。
この投げっぱなしぶりはどうだろう。死を覚悟した彼女をトニーがどう受け止めるのかという展開をあっけなく放擲する。
彼女がなぜ昏睡状態になり、なぜトニーに惹かれつつも一線を越えず、トニーの部屋を離れ新生活を始めたのか、そもそも一体彼女は何者なのか、映画を見終わっても彼女の人物像は皆目分からない。
「とりあえず上映時間が決まってるんでこれで終わりです」みたいなおざなりな結末。もしや続篇が存在するのでは、とさえ思わせる尻切れトンボは展開。
よくぞこんな脚本で公開したもんである。おそるべし香港映画。そしておそるべしバリー・ウォン。