S・ストーン版『スパイの妻』、もしくは『アナザー・カントリー』の続編的作品
1963年、東西冷戦下のベイルート。
夫と幸せであるが倦怠感もある生活を送っていたサリー(シャロン・ストーン)。
ある日、独身の英国報道特派員レオ(ルパート・エヴェレット)と出逢い、熱烈な恋に落ち、結婚。
サリーとレオは幸せな結婚生活を送っていたが、突如レオが失踪してしまう。
サリーのもとを訪れたのは、英国情報部MI6.
そこで告げられたのは、レオは英国とソ連の二重スパイだった。
そして、レオはモスクワにいる・・・
といった物語で、ここまでのところでおおよそ映画の半ばどころ。
日本タイトルから受ける印象だとシャロン・ストーンが女スパイのようだが、彼女は「スパイの妻」。
二重スパイである夫を、ふたたび家族のもとへ引き戻そうともがくさまが後半の展開。
原題の「A DIFFERENT LOYALTY」は、異なる信義とでも訳せばよいか。
サリーとレオの、それぞれ異なる信義が描かれていきます。
マレク・カニエフスカ監督作品としては『アナザー・カントリー』の系譜にあり、というかほとんど続編的な色合いで、英国エリートの苦悩が淡々とした描写のなかにも滲み出してきます。
例えば、
サリーにMI6の上級官が告げる言葉。
「ソ連に転ぶ輩には同性愛者が多い。あなたとの生活も、偽物ではなかったかね」
死の床にいるレオの父親がふたりに告げる言葉。
「この英国を牛耳っている腐ったやつらに、忠誠を誓えるはずなどない」
最後の別れを前にサリーに告げるレオの言葉・
「マルクス主義が間違っているのではない。ただ、いまこのソ連という国のやり方が間違っているだけなんだ」
など。
シャロン・ストーン主演なので、エロティック・スパイ・アクションみたいな先入観があるかもしれませんが(また、観客サービスとしてそのようなシーンも少しだけ用意されていますが)、ま、決してその手の映画ではないことを念頭に置いてみれば、そこそこ面白く観れると思います。
なお、前半はロマンス描写に重きを置いてソフトフォーカスで撮っており、後半になるとやや乾いたタッチのカメラになります。
撮影監督はロバート・アルトマン監督の『ゴッホ』『ザ・プレイヤー』『プレタポルテ』などのジャン・ルピーヌ。
また、マレク・カニエフスカ監督は『アナザー・カントリー』『レス・ザン・ゼロ』『ゲット・ア・チャンス』と本作の4本しか、長編映画を撮っていません。
ついでながら、「1967年に出版された、エレノワ・ブルワー・フィルビーの著書『キム・フィルビー(Kim Philby):私の愛したスパイ(Kim Philby: The Spy I Loved)』に基づいて制作されたスパイ映画」という解説をみますが、クレジットにはそのような表記がないようにみえました。