キングダム・ソルジャーズ 砂漠の敵

きんぐだむそるじゃーずさばくのてき|THE MARK OF CAIN|THE MARK OF CAIN

キングダム・ソルジャーズ 砂漠の敵

amazon
レビューの数

1

平均評点

80.0(2人)

観たひと

3

観たいひと

0

基本情報▼ もっと見る▲ 閉じる

ジャンル アクション
製作国 イギリス
製作年 2007
公開年月日 未公開
上映時間 95分
製作会社
配給 トランスフォーマー
レイティング
カラー カラー/ビスタ
アスペクト比
上映フォーマット
メディアタイプ
音声

スタッフ ▼ もっと見る▲ 閉じる

キャスト ▼ もっと見る▲ 閉じる

解説 ▼ もっと見る▲ 閉じる

駐留軍によるイラク人虐待事件を元にした戦争アクション。2003年8月、バスラに派遣されたイギリス軍兵士のマークとシェインは、目の前で仲間が殺される残酷な場面に遭遇する。復讐心に燃えるふたりはやがて、凶悪な矛盾に気付き始める。【スタッフ&キャスト】監督:マーク・ミュンデン 製作:リン・ホースフォード 脚本:トニー・マーチャント 撮影:マット・グレイ 出演:ジェラルド・カーンズ/レオ・グレゴリー/マシュー・マクナルティ/マイケル・バーン

あらすじ ▼ もっと見る▲ 閉じる

キネマ旬報の記事 ▼ もっと見る▲ 閉じる

2013 年

2013/08/17

80点

購入/DVD 


『ア・フュー・グッドメン』超えてるじゃん、これ!

 ミリヲタとしてイラク戦争時の英軍装備を見たくてDVDを買ったのだが、それどこじゃなかった!戦争(反戦)映画の傑作だぞ、これは!

 と言っても、実は映画ではなくTVムービーである。だが、英国映画テレビ芸術アカデミー(映画の英国アカデミー賞もここが主催)のTV部門の方で、08年最優秀単発ドラマ賞を獲得しており、本国では高く評価されたようだ。この作品、もっと日本でも見られていいぞ!

 イラク戦争中、ノースデール・ライフルズ(架空の軽歩兵連隊)第1大隊に所属する主人公たち分隊は、パトロール任務中に襲撃を受けて仲間を失う。犯行に及んだテロリストはどうやらバスラを根城にしているらしいとの情報に基づき、バスラでテロリスト捜索任務を行う。

 調べてみると、反抗的な態度の者、拳銃を隠し持っている者、多額の現金を所持している者や、双眼鏡を持っている者が発見された。このイラク人たちを、テロ容疑で基地にしょっぴく。

 だが、取り調べは憲兵が行う。歩兵たちは連行するだけで後はお役御免だ。そんなバカな話があるか!こっちは仲間を目の前で殺され、自分も殺されかけたんだ!取り調べはオレ達で行う!と、夜更けに兵士たちは捕虜を拘禁している施設に上がり込み、“取り調べ”という名のリンチを始める。

 「こんなバカな話があるか!」という“正義”を主張するのは、歴戦の軍曹だ。修羅場でいちばん頼りになる、軍人としての適性と経験を備えたデキる男である。バーンズのようなもんだ。この軍曹に焚き付けられる形で、分隊全員が虐待行為に及ぶ。

 主人公のシェーンはまさに、“正義”と信じてこのリンチに加わる。実はこの時点より前のエピソードとして、ガソリン泥棒を捕まえたら民衆が「殺せ殺せ」と興奮して集まってきたので、逮捕した英軍部隊が全員でよってたかって半殺しにし、民衆を納得させる、というシークェンスが描かれているのだが、この時には彼だけ暴行に加わらない。「手錠をかけられた無抵抗の相手は殴れない」という独自の倫理感からだ。だが、今回は軍曹の説く“正義”に積極的に賛同して、リンチに加わる。

 もう1人の主人公マークは逆で、ガソリン泥棒には小突く程度の暴力はふるったが、今回のテロ容疑者へのリンチに加わることには、かなりの拒否感を覚える。だが、彼の場合も、「今回はなんとなく自分の倫理観的には許せない」といった漠然とした気分から出ている拒否感にすぎない。だが戦友シェーンから「ここで1人だけ反対を唱えると、隊の中で浮いた存在になるぞ。戦闘中に助けてもらえなくなるかもしれないぞ」と脅されて、渋々リンチに加わる。

 こういう時に、善悪正邪を、漠然とした印象やなんとなくの気分としての個人的倫理感で判断するのではなく、我々が属している社会・文明において、その行為が許されるか否かを正しく判断するためには、やはり教育が不可欠なのだ。この教育が欠けていると「仲間を殺されたんだから、取り調べはオレ達自身で行い、必要なら処罰もオレ達が下す!」という、前近代の正義、中世の正義、無学無教養の正義、野蛮人の正義、まさしく「リンチ」が正義であると思えてしまうのである。

 英国陸軍に法律を軽く学んだ奴がいれば「これって違法では?」と気付く。いや、法律は知らずとも、最低限、中学・高校で公民や倫理や歴史をちゃんと学んでいれば、「人が人に対しこんなことをするのは、近代社会では禁じられている」と気付くだろう。文明社会では、容疑者には、裁判を受ける権利があるし、取り調べや裁判の場で、不当に不利な立場に追い込まれてしまうことがないよう、弁護士を呼ぶ権利がある。また、その裁判で有罪が確定するまでは「推定無罪」の原則が適用される。もちろん、なんぴとも虐待や拷問を受けることがあってはいけないし、そもそも、人間であれば誰にでも人権というものがあるのだ。それが、我々人類が悲惨な歴史を経てようやくたどりついた“近代”というものの成果である。その程度のことでも知っている青年が英軍に多くいれば、リンチなんて事態は起きなかったに違いない。

 …だがシェーンもマークも、学が有りそうな感じではないのである。

 シェーンに至っては、手錠をはめたアラブ人を殴ることはあれだけ嫌がったのに、今回のテロ容疑者へのリンチは“正義”と信じて疑わず、その模様をデジカメで撮影し、さらに帰国後、その画像をカノジョに得々として見せびらかす、ということを無自覚に行う。もちろんカノジョの方はドン引きで、しかもこの直後にシェーンに浮気されて別れたため、腹いせに警察に通報し、事態が露見してイギリス軍を揺るがす大スキャンダルに発展、軍法会議で裁かれるに至るのである…。

 昨今、“愛国教育”の必要性が叫ばれているが、愛国心(とか郷土愛)なんてもんは、肉親への無条件の生理的愛着と同じで、わざわざ教育を施さずとも普通は生得的に芽生えるのである。学のないヤンキーでもフーリガンでも街宣右翼でも本能的に身に付けている。わざわざ教育して国民に身に付けていかねばならないのは、近代人としての思慮分別と良識なのだ。これは教育によってしか得られない知識だからである。

 いや〜、考えさせられたなぁ〜この映画!良作です!