ストーリー構成が素晴らしい。魂が揺さぶられた
ネタバレ
戯曲を映画化しただけに、脚本が素晴らしい。一人の女性の凄惨な人生を、彼女の双子の子供達(男と女)が母の過去を追うシーンにクロスオーバーさせて描いていきます(子供達が母の過去を調査する現代のシーンと、母が実際に行った過去の所業のシーンを交互に展開しています)。子供達は、生前の母を変人の様に思っていたのですが、母から託された遺書(父と兄を探しなさい、というお願い)を気乗りしないながらも実現しようと、母の故郷のレバノンへ行きます。そこで、これまで知らなかった母の過去を徐々に知るのですが、遂に驚愕の事実を知ってしまいます。
観客も二人と同時進行で知る事になるのですが、映画という作り話でありながら、暫し呆然となってしまうラストでした。
レバノン内戦が描かれているので、子供を平気で銃殺するシーン等が出てきます。自室で一人で観ていた私でさえ、思わず叫んでしまいました。こんな非情な世界で主人公の女性ナワル・マルワン(もともとはキリスト教信者)は内戦に巻き込まれていきます。でも、そもそも、彼女の運命を変えたのは、(恐らく)異教徒の男性の子供を宿したからです。家族からは「お前は家族の名誉を傷つけた」と非難され、生まれた子供は直ぐに何処かに連れていかれます。彼女は、伯父の下に預けられます。自分の生んだ男の子を忘れられない彼女。故郷近くの託児所が襲撃を受けたと聞き、自分の子を捜しにいきます。そこで目にした惨劇に、彼女も内戦の戦士となってしまいます。政治家を暗殺し、牢獄に入れられ、拷問士にレイプされます。そして、運命は、、、この続きは超ネタバレで書けません。
主人公ナワル・マルワンが最後に選んだのは、自分の心身に想像を絶する様な危害を加えた拷問士に対して、肉体的な復讐を与える事ではありませんでした。その男がした事が何だったのかを、彼自身の魂に強烈に響く様に伝えることでした。それを知った拷問士の表情、こわばった身体。この方法によって、彼女は「憎しみの連鎖を断つ」のでした。
では、憎しみは、どうやって生まれるのでしょうか?私には、「家族の名誉」とか「国家のために」の様な思想が生むと思います。そんなことより、個人の幸せを真剣に考えてあげたら、例えば、ナワル・マルワンが子供を産んだ時に離れ離れにされなかったら、彼女は内戦に巻き込まれる事はなかった。何が大切なのかを考えさせられました。
出演している役者は全員私が知らない方々ですが、とても良かったです。この役者陣の表情が、この作品にリアリティを与えていると感じました。母親の(恐怖を感じながらも)意を決した表情、真実を知るにつけ精神が壊れていきそうな自分を何とか堪えようとする娘の表情、拷問士が母を舐め回す様な表情。そして、冒頭の子供の怖い目。。。