内戦が深刻化するチャド。かつて水泳のアフリカチャンピオンだったアダムは、高級ホテルで長年プールの監視員をしていた。ある日、ホテルの支配人は、息子アブデルに仕事を譲り、彼自身は門番の仕事に就くよう命じる。プライドを深く傷つけられるアダム。追い打ちをかけるように地区長と呼ばれる地元の有力者から、戦争基金を供出するように圧力がかかる。金を払えないアダムは、引き換えにアブデルの兵役への徴集を黙認してしまう。アブデルがいなくなり、妊娠中の恋人が彼を訪ねてくる。後悔を募らせるアダムは、ついに決意し、戦火の激しくなるさなか、アブデルを連れ戻すために前線に向かう。
チャドの内戦の歴史は長く、1960年の完全独立以降、ほとんど休む間もなく政府軍と反乱軍の衝突が続いている。アダムは、1965年のアフリカ大会チャンピオンだということなので、映画の舞台となる55歳時の時代背景は、2000年~2005年ぐらいなのだろう。
そのあたりの戦争絡みの事情は、もちろん重要なテーマになっているのだが、本作でそれ以上に重要なのは、一度栄光を手にした男の老齢に達してからの生きざまなのではないかと感じる。オープニングでアブデルとふざけ合っている時のアダムには、余裕や貫禄が感じられたが、息子に仕事を奪われてからは、その余裕が消えうせ、一種の嫉妬のようなものを息子に対して抱いているように見える。自身の力が衰え始めたときに、その現実とどのように向き合っていくかは、プライドの塊のような男にとって、大切なところだろう。
我が身を振り返ると、アダムによく似ている部分がある。もし息子がいたら、今頃、嫉妬心に苛まれていたのかもしれない。