素人勘違いヒーローもの。同時期に封切られた「キック・アス」と同様、イケてない男がヒーローに扮し活躍するというアクション・コメディ。ただあちらが吹っ切れたバイオレンスと乾いた笑いで大ヒットしたのに比べこちらは散々だったようだ。企画が被ったせいなのか、それとも・・・・。
確かに「キック~」と比べるとこちらの切り口はかなりエグい。同じブラック・コメディだけど娯楽性に徹した「キック~」と比べると、こちらには陰湿さがまとわりついている。あるいはヒーロー像に狂気に近いものを感じると言ったらよいか。
主人公フランク(レイン・ウィルソン)の相棒となったリビー(エレン・ペイジ、好演)など完全にイッてる女として描かれる。正義の力を発揮したくてウズウズしている。だからいざ悪を見つけるや、その過剰な反応は目を覆うありさまとなる。
フランク扮するクリムゾンボルトもその過激さから、当初は凶悪犯として報道されている。ボタンをかけ違えている二人の行動は、一般人には狂人のようにあるいは道化のように見えてしまう。およそヒーローとは言えない醜さ。ここまで徹底して醜く描かれるとこれが監督の意図なのだとわかってくる。
正義も暴走すれば、悪以上の悪になり得る。そもそも正義って何なのか。ヒーロー映画ではチラッとも考えることなどない思いに駆られてしまう。
もっとも二人に胸を張らせるために、敵も麻薬犯や小児性愛者といった卑劣な悪に絞っている。悪のパワーと正義のパワーは終盤に近づくに連れて互いにボルテージを上げていき壮絶な修羅場を迎える。このあたりの描写はタランティーノもびっくりの凄惨さで、さすが「ドーン・オブ・ザ・デッド」の脚本を担当した人だけのことはある。
こうして見ると「キック・アス」がとても大人しい娯楽映画に見えてくる。あちらにはなかった問題意識も伺えた。