ストーリーは複雑でわかりにくいので、集中力が必要です
恥ずかしながらアーサー・コナン・ドイルの原作シリーズは一度も読んだことはありません。だから今回は単なる探偵推理ドラマとしてこの映画を見ました。素人の私から見れば、一般的に知られるホームズらしさを期待したのですが、実際は普通のアクション活劇だったのでした。ちょっと変わっているのは時代背景がレトロということくらいでしょうか?
ドイルの原作に登場する名探偵シャーロック・ホームズは、元々ボクシングやフェンシングなどの武道に長けていて、若い頃は化学実験にのめり込んだり、薬物に手を出したりと、その生活ぶりは多分に退廃的であったそうです。ですから、この映画に登場するムキムキでめっぽう強いが何となく病的な感じのするホームズというのは、原作ファンにとっては意外ではないかもしれません。ただ、元々オリジナルに疎く、彼をいつもパイプをくわえた冷静沈着なイギリス紳士と思い込んでいる人間にとっては、かなりイメージが違って見えたのでした。ワトソンとの友情についても、オリジナルを知らないので二人の関係が良く分からず、ホームズがワトソンの結婚を邪魔するなどという展開は、「おや、この二人怪しいのかな?」などと、余計な想像をしてしまったのでした。
スタイリッシュな映像にテンポの速いストーリー展開は、時代背景のわりには現代風な感じがするのですが、それに見合うドライな笑いがもう少し欲しかったと思いました。ストーリーにしても、推理劇というより、場面ごとにトリックの種明かしを積み上げていくという趣向なので、観客自身が物語と推理をじっくり楽しむというわけにはいきません。また、予想以上に内容が複雑なので、ちょっと気を緩めると何がなんだかわからなくなる恐れがあります。
なお、聞くところによると、脚本はこの映画のために新たに書かれたものだそうですが、どうりで話が大きすぎるわけです。イギリス的な風刺を利かせたミステリーを期待していたのですが、実際はやたらに派手で大衆的な作品に仕上がっています。これってホームズ演じるダウニーの個性から来るのかもしれませんが、ハリウッド的な通俗性が前面に出たぶん、なぜ主人公がホームズでなければならないのか、その必要性があまり感じられなくなってしまったのが残念です。
とは言っても、ハンサムなジュード・ロウが出ているので、彼のファンの方(私もその一人)は、一見の価値があると思います。あと、印象に残ったのはハンス・ジマーによるテーマ曲ですね。ミステリアスで軽妙なテンポの旋律をバックに、実写とレトロなイラストを上手く組み合わせたエンドロールは、本編以上に(?)センスの良い出来上がりになっています。
(2010/3/26 記)