15年服役した女性、ジュリエット。
理由があって自分の息子を手にかけた。
出所後、妹に迎えられ、妹夫妻の家へ。
だれもが何かの闇を抱えており、そんな周囲に少しずつ心を溶かして、ジュリエットが再生する・・・
そう伝えればよいのだろう、この映画。
判り易い映画ではない。
淡々と物語(というよりも出来事)が綴られていくから。
ここいらあたりは、小説家である監督のフィリップ・クローデルが目指したところだろう。
興味深いのはジュリエットを取り囲むひとびとにもなんらかの闇を抱えていること。
大学で文学を教える妹のレアは、刑が決まった後、姉の存在をないものとしてきた。
ジュリエットが定期的に会わなければならない監察官のフォレ警部は、離婚し、絶望の淵におり、大河オリノコ川を見ることだけが心の支え。
レアの同僚で、ジュリエットが心を開いていく男性ミシェルは、刑務所の教師を勤めて、自分と囚人たちの差は紙一重だと気づく。
また、レア夫婦の友人であるイラン人医師は、フランスでの伴侶との間に子供は生まれるが、本国では戦火で家族を失った。
ジュリエットとレアの母親はアルツハイマーで、レアのことなどまったく覚えていない。
突然、お見舞いに現れたジュリエットの姿をみて、過去をイッキに、ただし一瞬のみ、甦る。
そんな中で、闇を抱えていないようにみえるのは、レア夫婦のベトナム人養女のプチ・リス。
元気一杯、こわいことなんてないさ。
でもでも、養女になるくらいなんだから、彼女がしらないところでは、たくさんの闇があるのかもしれない。
終盤のクライマックスの直前、ジュリエットがわが子を手にかけた理由をそこはかとなく示すシーン、
イラン人医師からの電話をレアが受けるシーンで、プチ・リスが童話を朗読しているのが印象的だ。
「王子さまは森へ入っていきます。
森は真っ暗だから、そこではオオカミもイヌも区別が付きません。
王子さまが恐れるのは暗闇だけなのです・・・・」
ひとそれぞれの無明。
ジュリエットは再生します。
でも、そのほかのひとびとも闇を拓きながら、日々再生しているのかもしれません。
どちらかというと、映画で観るよりも、じっくりと本で読みたい類の内容でした。