山ちゃんこと山田泉さんは乳がんに罹っており、最後の海外旅行に選んだパリで、チェリストのエリック・マリアと知り合います。
知り合ったのも何かの「ご縁」。彼女はエリック・マリアに五円玉を記念に渡します。
山ちゃんの病の重いことを知ったエリック・マリアは、才能豊かで年間150近い演奏を行う過密スケジュールを排して、彼女の住む大分へ遠路お見舞いに出かけます。
こう書くと、ただのお見舞い、お泪満載のドキュメンタリーかと思われるかもしれませんが、さにあらず。
エリック・マリアと出逢ったのも何かの縁、お見舞いに駆けつけてくれたのも何かの縁。
縁はつながる、と感じたのでしょうか、彼女は自分の大切なひとたちにエリック・マリアを引き合わせます。
山ちゃんが「いのちの授業」を何度も行ってきた、事情ある子供たちが暮らす施設。
エリック・マリアが訪れる数日前まで入院していたホスピス。
施設の子供たち、ホスピスの患者たちの前で、エリック・マリアはチェロを弾きます。
心を穏やかにする音色、癒される音の調べ。
チェロが奏でる音楽に聞くひとびとは図らずも泪します。
バッハの「無伴奏チェロ組曲第一楽章」。
子供たちのために覚えてきたという『天空の城ラピュタ』の主題歌。
エリック・マリアは日本語の歌詞を添えて、チェロを奏でます。
そして、山ちゃんが住む街の山寺の住職。
エリック・マリアが生まれた頃、戦争が激しかった頃のベトナムへ行ったという老住職。
その口からこぼれる言の葉は、「ひとは大地の子」。
国境や人種や宗教やなんかで区分できない、ジョン・レノンの「イマジン」にあるように。
エリック・マリアは日本を離れる際、次のように気づく。
「探していたものは見るからなかったが、新たなことが見つかった。
ひととひととの気持ちのやりとり、こころのやりとり。
それが、ひととひととの、いのちのやりとり」
彼が探していたものは何だったのかは、よく判らないが、見つけたものは、よく判る。
これも何かのご縁で。
袖摺り合うも他生の縁。
無理やりつながりを探さなくても求めなくても、そこいらへんから、自ずと出来てくるものなのだ。
押し付けがましくなく、すぅーっと心にはいってくるような、そんなドキュメンタリーの秀作です。
なお、エリック・マリアが出会う老住職は『全国こども電話相談室』で有名な無着 成恭(むちゃく せいきょう)。
久し振りに名前と姿を拝見しました。