おもちゃのような手紙,宝箱の中の写真,そしてベッドで語られるファンタジー,そこにある儚さは,人生が一瞬でしかないことの寓意のように映っている.その一瞬は,落下の一瞬でもあり,人生と物語がともどもにその瞬間を輝かせようともしている.
ロサンゼルスの昔として語りの舞台は整えられる.語られる物語は砂漠から始まり,それは自殺願望のある映画俳優ロイ(リー・ペイス)の心象のように映されている.冒頭にはスローモーションがあり,聞き手でもあるアレクサンドリア(カティンカ・アンタルー)は耳からの情報を視覚的に再現ができる子どもでもあり,彼女はいくつかの危機的な場面で,フラッシュバックを体験している.彼女は右目と左目では違うものが見えることを経験し,目をつぶり,目を擦ることで星空が広がることも現実として体験している.
「英語」とされる手紙がヒラヒラと落ちていき,こうした重力性の運動は,砂漠の圧倒的な水平的構成とそこをいく虚しさ,あるいはこぼれ落ちてしまう水によっても表現されていく.看護師のエヴリン(ジャスティン・ワデル)は姫のように現れる.アレクサンドリアはその名前からアレクサンダー大王として物語に登場する.星空の下にある珊瑚礁の島の4人とインド人,そして猿のウォレスもそれぞれに現実の何者かでありながら,少女アレクサンドリアの視覚的想像力が再現した何かでもありうる.物語の言葉は,現実のここにあるベッドとそれを囲むここにある病院世界に聞こえる言葉たちと同期し,互いに互いを借りあっているようにも感じらえる.
腕の怪我あるいは足の怪我によって,身体性を失った若い女と男は,アメリカーナ・エキゾティカと呼ばれる蝶を欲望しているように見え,その欲望は,例えば物語の中のダーウィン(レオ・ビル)として仮象されている.復讐の思いは,爆発を司る科学者ルイジ(ロビン・スミス),海を泳ぎ切るインド人(ジートゥー・ヴァーマー),奴隷労働のうちで兄弟を殺された男(マーカス・ヴェズリー),焼けた木の中から現れる霊者(ジュリアン・ブリーチ) らに仮託されている.
ロイや物語の中の彼は幾度となく眠りに落ちそうになる.モルヒネの力を借りて深い眠りに落ちようともする.舌で感じられる氷屋の氷,聖体のパンのように口から入る食べ物,噛むことを補う入れ歯など,口は語る以外にも何事かを求めているように感じる.仮面は,被る者の世界の見え方を変え,被った者が他者から見らえるその姿を変え,ひいては被った者の行為を変容させる.心と魂と力の同一が強く語れ,男たちは叫んでいる.「グーグリ」という呪文が聞こえ,視覚は回転し,城の外には青い街が広がっている.
言葉と視覚,身体と映像の関係を物語の仮構を借りながら鋭く突いてくる.