コーヒーのCM並みの陰鬱な表情のトミー・リー・ジョーンズ
ベトナム戦争の退役軍人モス(ジョシュ・ブローリン)は戦場での経験から冷静に立ち回り、追っ手からも逃げ切れるという自信を持っている。残忍で非情な殺人者シガー(ハビエル・バルデム)と対決し互いに負傷するが、人間的な感情を持たないかのようなシガーにはかなわない。
人間性を喪失した男が平時のアメリカ社会の中において振るう暴力が、ベトナムの戦場で体験した暴力などよりはるかに強烈なものなのだ。そのシガーの冷静かつ残忍なキャラクターと暴力描写が非常にリアルであり、映画全体の印象を強く決定づけている。
保安官のトム(トミー・リー・ジョーンズ)は現代の社会の暴力性や道徳的な価値観の崩壊に適応できず、年齢的な老いもあって暗澹たる思いに包まれている。同じ社会の中で暮らしているとは思えないほどで、事件を追いながらも争い合う者たちと交錯することはない。
映画は、圧倒的な暴力の前でなすすべなく立ち尽くしているかのような現代の混迷に解決策を提示することはできない。ただ、シガーも不慮の事故によって腕を骨折する重傷を負う。常識も道徳も通用しない閉ざされた自分だけの論理で行動してはいても、人間であることを思い知らされる結末だった。