舞台はボスニア紛争時のサラエヴォに近い山中の村、戦時下の、ましてや補給路である鉄道を維持管理している訳での出来事ですからいろんな事件が起こります。
そして、それを超えて二人が愛を確かめ合ったところのラブシーンは最高でした。キスをしながら野に出て枯野を転げまわる2人。数あるラブシーンの中でも最高のシーンの一つだと思いました。
その後の捕虜交換は、最愛の彼女を敵方に渡し、捕虜になった息子を受け取るというシーン。これは相当な葛藤というか、映画でも文章でも描き切れないような、戦争映画の中でも、かなりシビアな心情を現したシーンだと思います。
これで希望を失ったルカは自殺を図ろうとし、そこでミラクルとなる訳です。それまでにも、たくさんのエピソードが入り、とうてい語りつくせないような映画になっています。
内戦の悲惨な状況が周囲にあり、それは言葉だけで語られますが、実際登場人物の周りで起こっていることは、ほのぼのしてとても明るい事。希望を失わない映画になっています。そして、戦火の中で彼らは生きていく。普段と同じ山中の生活を試みている。それをこの映画はとても明るく描いています。
物語の進行で、重要な役割を果たしているのは一つは、ロバです。恋煩いをして自殺願望があり、線路の上にくると頑として動かないロバとして語られます。物語の当初はまだ開通前ですので、列車は来ませんが、折々の節目に登場し、ラストでは彼がミラクルを起こしてくれます。立派な狂言回し役です。
もう一人は、郵便配達。彼は町と村を行き来しており、いろいろな情報を先取りしてルカに伝えてくれます。それによって彼は行動を考えて準備していきます。
クリストリッツァ監督の映画は初めてで、「アンダーグラウンド」も未見なので、多くを語ると失敗しそうですが、宗教と民族が入り混じって暮らすこの地域で、それぞれが土地を追われ殺し合うという悲劇が長く続いたのはつい昨日のことです。それをラブ・ロマンスという形で、美しいボスニアの自然と共に、明るく希望をもって描かれた映画。いつまでも記憶に残しておきたい素晴らしい映画だと思います。