邦題からはとても甘いラブストーリーを連想するが、そこはケン・ローチだけに、内容はかなり社会派で重い。原題は『やさしいキス』だから満更ウソの邦題ではないが、それにしても言葉の響きがかなり違うだろう。それでも、ケン・ローチ監督が初めて挑んだラブストーリーというのも確かだ。
国が違い、肌の色が違い、宗教も違う二人が愛し合っても、これは前途多難だ。アイルランド人の音楽教師ロシーンと、パキスタン人の移民のカシム。しかし、二人は愛し合ってしまう。カシムはまだ見たこともない同族の女性との結婚を決められていた。その上でロシーンに近づくのには驚くが、やはりその結婚に気が進まなかったのだろう。敢えてこれまで虐げられてきた白人の女性を選んだのも、心のどこかで差別のない世界にするための突破口を求めいていたのかもしれない。しかし、それでもこの愛を決行するには、家族も仲間から白い目で見られ、更に自分の家族との決別が待ち受けている。それでもこの愛を成就させるべきなのか。
カシムの悩みはかなり深刻だ。しかし、そうまでして一緒になっても、果たして二人の愛は永遠なのか。周囲の反対を押し切って無理して結婚しても、いつまでもその生活が続くとは、誰も保証できないのだ。その当人たちでさえ。
二人の決断は、正解だったろうか。それは誰にも分からない。愛する二人から希望を奪う、この国の悲劇。宗教とは人を幸せに導くものではなかったのか。大いなる矛盾を抱えていても、この国で生きて行かねばならない人たちが、大勢いる。