これは映画「五本の指」ではありません。「わが名はキケロ・ナチス最悪のスパイ」のレビューです。
ネタバレ
KINENOTOにはトルコ映画「わが名はキケロ・ナチス最悪のスパイ」はいくら探しても見当たりません。そこで同じ主人公を扱った映画「五本の指」を借りてレビューを書くことにしました。後日、KINENOTOに新規に掲載されたら、そちらに転記するつもりです。
題名が何ともおどろおどろしいので、こけ脅しのチープな代物かと半分舐めてかかって見始めたような気がする。だから尚更、この作品の緻密な展開に居ずまいを正した。サスペンス映画としてよく出来たストーリーで、いつ正体がバレるかとハラハラしながら見入った。
第二次世界大戦下でのスパイ映画であるが、立ち位置が米英連合国側でもなくナチスドイツ側でもなく、トルコ側であるところが目新しかった。主人公(イリアス・バズナ別名キケロ)(※1)の行動基準が自由主義側かファシズム側か、どっちなんだと見ていて混乱した。こちらの了見の狭さゆえの混乱である。
(※1)wikipediaではキケロの本名を「エリアサ・バズナ」と表記している。
主人公キケロはイギリス将校の下で執事として働き、雇い主の機密文書を盗撮してナチス側の将校・モイズィッシュに売る。この映画の主人公の立ち位置は、周辺のどの国とも手を握らない、トルコの自立に軸足を置いている。ナチス将校モイズィッシュと情報提供で往来しているうちに、モイズィッシュの秘書・コルネリアへの愛が芽生える。コルネリアには精神遅滞の子どもが居る。彼女はナチスのエリート主義が惹き起こす精神遅滞の子ども虐殺の陰謀に我が子が巻き込まれないかと慄(おのの)いている。しかもモイズィッシュもまたコルネリアに恋愛感情を抱いているのだ。人間関係が複雑になってくる。
話は本題に入っていく。キケロが提供し続けるイギリスの機密文書にノルマンディ上陸作戦が含まれていた。情報はモイズィッシュから総統ヒットラーに上げられていく。
これだけのエピソードを縦横無尽に交錯させて盛り上げていく脚本が巧い。難を言えば、子どもが集団でガス室に送り込まれるのを母親であるコルネリアが救出するために強制収容所まで車を走らせる展開は頂けない。視覚的に救出のプロセスを描いてサスペンスを盛り上げようとしたのだろうか。この辺りはモタモタして折角の緊張感が弛緩した。
連合国とナチスとの戦闘映画はいっぱいあるし、密かに連合国側に立ちながらナチスに抵抗するいわゆるレジスタンス映画もいっぱいあった。しかし、この映画のように、二者択一ではなく、まさに第三の道を進もうとした姿勢は目新しい。
実際にはイギリス側は執事キケロのスパイ行動を察知していて、敢えて偽情報を掴ませて泳がせていたという説も存在するらしい(wiki)。
余談ながら、
キネノートに登録さるている素材を借りて、異なる演し物をレビューとして記載したのは、留さんのアイデアにインスパイアされたものです。留さんは時々それをおやりになる。
例えばキネノート「蛇皮の服を着た男」の映画に文学座2023年5月アトリエ公演「地獄のオルフェウス」のレビューを貼り付けておられる。
「わが名はキケロ・ナチス最悪のスパイ」のレビューの下書きは2020年には書き上げていました。KINENOTOにこの映画が新規搭載されたら、レビューを掲載しようとときどき確認していましたが、一向にその形跡がない状態が続きました。留さんの貼り付け方法から一つのアイデアを思いつくまで既に3年を経ていました。