なんといったらいいか語彙力がなくなるというか、とにかく形容し難い映画だった。
究極の純愛!みたいな感じで形容されてる節もあるようだが、そんな単純なものではない。
そもそもこれを恋愛と呼んで良いのか、という根本的なところも突きつけられる。
主人公のジョンドゥは、前科者の社会不適合者と謳われているが、誰がどう見ても何らかの発達障害をもっている。知的障害が伴っているのかどうかは定かではないが、落ち着きがなく、理性がなく、感情と行動が一直線で、善悪の区別もつかない。明らかに専門の支援なしにはまともに生活できないレベルなのだが、家族はそんな事に見向きもせず、ただ常識がなく浅はかでまともじゃない家族に迷惑をかける存在だと思っている。
いや、もしかしたら気づいているのか?気づいているけど認めようとしないだけなのか。
明らかにこの家族のせいで、彼は2次障害を起こしていて、うまく社会に溶け込めず、犯罪を繰り返しているのだ。
この犯罪にも、悪意があるとは言い難い、マトモな考えが出来ないが故の成り行き的なものなのだと言うのはわかるのだが、思うがままに行動を起こす彼自身にも悪いところがないかといわれると、家族の憤りも全く理解できなくはないところが何ともいえないので難しい。
とはいえ、社会的弱者の彼をいいことに、自分のひき逃げの罪を押し付けている兄は端的にいってクズ中のクズだ。
しかもそれを棚にあげて弟の行動を非常識扱いし非難して人格否定する。
そんな彼が出会うのが脳性麻痺という身体的な障害を追った、兄の起こした事故の被害者の娘なのだが、こちらも家族がシンプルにクズ。
兄は身障者用の立派なマンションを申請し、監査の時だけ妹を連れてきて同居しているように取り繕って、あとは粗末なアパートで生活の自立もできない妹を金で雇った粗雑な夫婦に押し付けている。
この夫婦もろくに面倒を見ず、最低限の食事を運んだりする程度で、時にはラブホ代わりに使っていたり、まともに面倒を見ていない。
出所したジョンドゥが被害者の家に挨拶にいったことをキッカケに、彼女に興味を抱くのだが、この出会いから恋愛に発展するまでがまた独特で、最初は興味をもった彼女に花束を送るのだが、そこで置き鍵で家に入ってしまうあたり、もうやってることが犯罪者なのだ。
そして、彼女と話しているうちに無理やり暴行しようとする。
複雑なのはそこに、彼女が身障者で抵抗できないのをいいことに、という悪意があるわけではなく、単に彼女に性的興味がわいたからしてるだけ、という幼稚園児のような発想でしかない。
そして脳性麻痺の彼女が痙攣を起こして意識を失うと、途端に動揺して逃げ出してしまう。
おそらく前科である暴行や強姦未遂もこんな感じで浅はかな行動でやらかしたんだろうな、と推察できる。
しかし彼女のほうはといえば、自分に花束を送り女性として興味をもたれたという初めての男性の出現に、徐々に恋心を抱いていく。
彼女のほうに知的な障害があるのかはわからないが、ジョンドゥよりは普通なのではないだろうかと言う感じがする。
ただ、思うように言葉も発せず、身体もままならない。されるがままにされざるを得ないという感じなのだ。
途中で彼女自身が、彼とデートする度に自分が健常者だったらという妄想シーンがあり、彼女が1人の女性として普通に彼と接したい気持ちがすごく切なく現れているのだが、これもなんとも複雑で、彼女自身が健常であったなら、そもそもおそらくこの主人公の事など好きになるわけがないのである。
いくら発達障害があるとはいえ、気に入らない事があればその辺のものを蹴飛ばし、悪い事をしてもそれがわからずヘラヘラ笑っていて、常識とルールが理解できず、コミュニケーションに問題もありまともな職にもつけないのだから。
だが彼女にとっては彼が人生で初めて女性に扱ってくれた男性であり、脳性麻痺という特殊な彼女の仕草や表情などに偏見をもたずに彼女を普通に扱ってくれるのも彼がそういう物差しで世間を見られないから故なのだ。
そう考えると、必然ともいえるようなこの2人の感情の交わりは、なんとも切ない。
お互いにお互いしか異性として扱ってもらえないような状態で、これをピュアな恋愛だ!だけでまとめてしまっていいのか、という後味の悪さがあるのも事実なのだ。
とはいえ、その現実の中で彼女が彼を好きになった事実には変わりなく、女心が少しずつ芽生え、勇気を振り絞って1夜を共にしたことが犯罪になってしまう、というもう救いようのない展開には目を覆うしかない。
彼となら言葉を発せる彼女が、彼の罪を弁明できれば良いのだが、そんなご都合主義にもすすまず、事は2人のクズみたいな家族と警察と、2人の関係を置いてきぼりに蚊帳の外でどんどん話が進んでいくもどかしさ。
もちろん2人が恋愛関係ですよというのが明らかになったとして、だからといってこの2人の未来が何か明るいのかと言われたらそれもないだろう、と思えてしまうので、なんとも言えないのだが。
ただ1つ疑問だったのは、最初に障害者に対する悪意じゃなく彼女に手を出そうとした彼が、何故彼女と交流をもってる間は彼女から言い出すまで手を出さなかったのか、というところだ。
実際に合意の元でそうなったときも、彼女が辛そうなのを見てやめようとしたり、だったら何故最初にあんなことをしたのか…という点はちょっとよくわからなかった。
また気絶したら大変だと思ったってことなのか…その部分だけがよくわからない。
欲求に忠実にしか動けないのであれば、途中でそういうことをしてもおかしくないのかなと思ったのだが、仕事を覚えようとしたり、彼女との恋愛において僅かながらも精神に成長が見られたのかなとも思ったのだが、逃亡中に女の人を脅して携帯を借りたり、そういうところを見ると浅はかな部分は変わりないようにも思える。
色んなメッセージがあるが、当事者でない私達が理解するには到底及ばない重たい物語だった。
脳性麻痺を演じた女優さんが半端ない。