旅の思い出のスチル写真が見える.イラストのような絵が映される.この映画はその先に描かれた誰かの妄想なのだろうか.怪しまれるのは,語り手の恒夫(妻夫木聡)である.彼は自分に都合よく,あるいは都合悪く語りすぎていないだろうか.そんな彼が紡ぎ出した理想の存在がジョゼ(池脇千鶴)という幻想となって見えているのではないだろうか.
雀荘でアルバイトする大学生の恒夫は赤い蝶ネクタイをしている.オーナーのミニチュアダックスを連れ出して朝方の散歩でババア(新屋英子)に出会う.乳母車に乗った女は包丁を切りつけてくる.女がジョゼ(池脇千鶴)である.乳母車を押しているババアについては雀荘でも噂になっている.関西弁が飛び交っている.
ジョゼは台所に座って調理し,その台から床にダイブする.味噌汁,御飯,だし巻きにお新香が恒夫に振舞われる.彼は食にやや目覚める.ジョゼの住む貸家は公営住宅だろうか,平家のアパートなのだろう.ここに恒夫はスクーターでヘルメットに乗ってやってくる.捨てられた本が積まれている.サガン「一年ののちに」などがある.ジョゼは押入れに入って本を読んでいる.彼女は,サルモネラ菌やルミノール反応,そしてトカレフといった余計で偏った知識を会得している.
恒夫はエロい女(江口のりこ)を性のフレンドにしている.香苗(上野樹里)という彼女がいるものの,性の問題があり,親密になれずにいる.
乳母車にスケボーをつけて改造し,街路を,堤防をジョゼと恒夫は疾走する.堤防の土手で転倒し,二人は空を見上げる.「こわれもん」であるジョゼは毒舌でもあり,施設での「母ちゃん」についてのエピソードがヤンキーのようなモヒカンの幸治(新井浩文)と共有されている.ジョゼは,乳母車やダイブや匍匐前進でなければ,おんぶされて移動する.すりガラスの向こうにおばあやジョゼの気配がある.やがておばあは消え,恒夫は性的な欲望もジョゼに解消していく.彼女は「関係ない」「帰れ」「おって」と矛盾した言葉を恒夫に吐く.ジョゼは物を投げる.それは本であったり,トイレットペーパーであったりする.
周りの人々の視線が感じられる.恒夫やジョゼの主観もあるが,その場その場にたまたま居合わせた第三者あるいは他者の存在が強く感じられる.そうしたモブでもなくノイズでもないが,それに近い存在としてカナイハルキ(藤原一裕)や隣のエロオヤジ(森下能幸)が現れ,酒井建設の男(板尾創路)もそれに近い.
酒は真澄,空き段ボールは信州のももなども見える.恒夫は就職活動を始め,就職している.
「蒼天龍」と名前の付いた幸治の愛車に乗って,二人は九州へと渡っている.パーキングエリアの車の騒音が聞こえ,海へ行くと波の音が聞こえる.サーファーに写真を撮ってもらう.半押しでピントが合う.「お魚の館」に泊まると,ミラーボールのように光の投影が回り出す.輪廻の底に沈んでいるものがあると確かに思う.