2002年度キネ旬ベスト・テン15位作品。
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自分の今の生活レベルを分相応と思い、
他人に何と言われようとも現状に満足なのだから、
他人の生活をうらやみ上を目指そうという気持ちが無い女。
彼女の前に、
女をきれいなもので着飾ったりいい物を食べさせることこそ愛情表現だと思っている上昇志向に満ちた会社の社長が現われるが、
彼女は彼の一方的な態度に反発して別れる。
彼女は自宅の古いアパートの下の階に住む男に対し、
社長とは逆のタイプの男として惹かれるが、
男は運送会社の仕分けという地味な今の仕事に不満を感じ、
妬みと憧れだけで、今の生活を捨てて社長のようになると言い出し、
そうした考え方を嫌う女と言い争いになる。
男たちは、社会的地位とか財力とか、他人にどう見られるかを重要視し、
逆に嫉妬心が心を卑屈にし、
自分自身をしっかりと持っている主人公の女にそれを指摘されると、
「ぼくの気持ちがわからないのか?」といじけた応対をする。
男たちの甘えた気持ちをことごとく跳ね返す女の言葉が、
まるで的確なパンチを繰り出すボクシングを見ているような面白さはある。
ほとんど動かないカメラワークと普通の構図、
それに、2人の人間が、作りこまれた台詞を棒読みで決して同時にしゃべらずにかわりばんこにしゃべるといった、
リアリティの無い、舞台劇のような様式の台詞のやりとりに面食らったが、
これはこれで面白く、上記で述べたように台詞による格闘技のような面白さがある。
この映画は、男と女の恋愛劇と見せかけて、
実は「高望みをしない生き方」と「向上心に燃える生き方」の、
それぞれのライフスタイルの間の戦いを描いている。
例えば、一人の人間のなかで、どちらの生き方をするかで葛藤しているような状態を、
ライフスタイルを擬人化して人対人の戦いとして見せているようなものである。
だから、どちらが正しいかといった答えは人それぞれなので映画で示せるはずもなく、
戦いそのものを見せているような映画である。
普通、周りに流されない生き方をしている役は女性よりも男性の方がしっくり来ると思われるが、
ここでは敢えて女性にしているということは、
何もリアリティのある女や男を描こうとしているのではなく、
生き方の違いを描きたいのであって、
性別の違いを描くのではないということだろう。
(以下ネタバレ)
ラスト、かたくなだった女を男の優しさに包み込むような形で終わるのは、
上で述べたようにもともと決着をつけられない話の映画を終わらせるためのオチに過ぎないのかもしれないが、
正しいか正しくないかだけの厳格さではなく、
緩やかさがあって人間関係が成り立つことを感じさせる。